兵長と年の差婚 | ナノ


「…あ、……ぁあっ!やめ、せんせぇ……っ!」

「そんなこと言いながら、ここがいいんだろう?」

「や、やめっ……も、らめぇ……っ!」

「くっ!…ほら、イっていいんだよ!」

「や、や、……イっちゃう!イっちゃうのぉ!」


そう言って甲高い声を上げた女は腰をひくつかせ、肩を上下させ息を整える。そんな女の膣からズルリと出される男根よりもカメラは女の膣をズームにし、モザイク越しに見える白く白濁した液体がドロリと流れ出すのが見える。


「へー。やっぱり男の人の理想ってナースなんですね」

「オイ、ミラ……」

「『桃色ナース24時!輪姦視姦ナースを凌辱プレイ!耐久中出し記録に挑戦!』……凄いタイトル」

「いや、ミラ話を…」


ダラダラと背中に汗をかくリヴァイと冷ややかな目でDVDのパッケージを見つめ、次の画面を見つめるミラ。
どうしてこうなったのか。

それはなんてことない平日。午前だけ仕事のあったリヴァイは手土産片手に足取り軽く家へと向かっていた。最近二人で気に入りの店のおこわは人気の余り午後ではすぐに売り切れになってしまうため、二人揃って食べられることはごく稀になってしまう。
おこわが、買えた事ともうすぐ家に着くとメールをすればすぐに返ってくる返事に思わず笑みが浮かんだ。その時気付くべきだったのかも知れない。今まであんな素っ気ない「わかりました」とだけ書かれた文面に浮かぶ思いを。


家に着くなり、聞こえてくる女の喘ぎ声と男の荒い息遣いにリヴァイは最初何者かが家に侵入したのかと思ったが、直ぐにそれは杞憂に終わった。聞こえてきた女の声は到底ミラのそれではないし、拒絶し恐怖に慄いている声ではない。どちらかと言えば受け入れ、喜んでいる声だ。
しかし、なんでそんな音が?と疑問に思いながらリビングに入れば、ペタリと床に座り込みテレビ画面を冷めた目で見ているミラの姿。

「…ミラ、今帰った」

「あぁ、おかえりなさい。リビングさん」


リヴァイへと視線をやることなくただ感情のない目で画面を見るミラ。
そんなミラの足元にあるDVDケースに目を向ければリヴァイは次第に顔色を真っ青にした。
若い時エルヴィンに嫌味で押し付けられた品だと言って果たしてミラが信じてくれるかどうか。嫌ならその場で捨てれば良いのだが、それが出来ないのが悲しい男の性。
どうしても我慢が効かない夜は確かにこれにお世話になったりもした。そんなことをぐるぐると考えていたリヴァイへと振り返ったミラは無言で今流しているDVD以外のケースをズラリと並べた。

「一緒に入ってました。高校生モノ痴漢モノ。婦警さんモノ。……制服プレイが好きなんですか?そうとは知らずにすみませんでした」

「いや、違うんだ。俺の話を……」

「いいえ。私、怒ってません。男の人ですもの。こういうDVDの一つや二つは持ってて当たり前ですし」

「ミラいや、だから…」


珍しく表情がわからない。普段のミラはころころと表情を変え、とてもわかりやすいというのに。まるで出会って間も無いミラを見ているようでリヴァイは密かに胸を痛めた。


「いいんです。私、理解してるつもりですから。だから、だから……」

「ミラ…?」

「だから、…お願いですから、…言い訳なんてしないで下さい…っ、」

「……っ、」

そう言って俯き、肩を震わせるミラにリヴァイは息を飲んだ。


下手な言い訳も慰めもきっとミラを傷付けてしまうのだろう。良くも悪くもミラはリヴァイ以外の男を知らない。
リヴァイ以外に付き合った事も無ければ触れ合った事もない。だからリヴァイと誰かを比べる事なんて出来るはずも無く、リヴァイが唯一絶対なのだ。良く言えば最強の自分専用、悪く言えば経験不足。そんなミラに対してリヴァイが出来るのは…



「すまなかった、ミラ」

「………っ、」

「確かにコレは俺の物であるし、確かに昔はこれに世話になったりもした。だがな、」

「ふ、……ふぇっ……、」


ポタポタと静かにラグに零れ落ちる涙にリヴァイはミラの前に膝をつき、こつりとミラの額に自分の額をくっ付けた。


「今は他でもない、お前だけだ。こんなものに今世話になるほど困ってるつもりもねぇ」

「わ、私…、私…っ、」

「………」

「胸もこの人みたいに大きくないし、こんな風にリヴァイさんを誘ったり、…出来ないけれど、だけど…!」


はらはらと涙を流しながら俯いていたミラがゆっくりとリヴァイを見る。リヴァイが帰って来るまで泣いていたのだろうか、目元が赤い。


「がんばる、から。だから……ほかのひと、なんて…みないでっ……、」

「……っ、」

「り、リヴァイさんの、好みにあわせる、から。がんばる、から、だから……わたし、だけで…!」


ふるふると震え、泣きながら年下の可愛らしい妻が珍しく可愛らしい嫉妬を露わにした。
普段ならば逆の立場になるのが殆どだというのに、名前も大して覚えていない画面の女に嫉妬し、リヴァイに捨てられまいと縋り付いている。そんなミラの姿にリヴァイはスーツに皺が寄るのも忘れ、勢いのままミラを抱き寄せた。

「……、リヴァイ、さん?」

「泣くな。それに心配する必要なんてない」


ぽんぽんとその小さな頭を撫でてやればいつもなら「服に皺がよるから」と言ってきつく抱きついたりしないミラがぐずぐず泣きながら力一杯に抱きついて来る。


「昔はどうにもしてやれないが、これからの相手はお前だけだ。今さら他の女に世話になる理由もねえよ」

「……、ん、ぅんっ……」

「だから泣くな。お前に泣かれると、弱い」


泣かせたい訳ではない。ミラと一緒になると決めたあの日、これからは泣かせないと自分に誓ったのだから。今まで我慢ばかりしてきた不器用なミラ。
そんな不器用なミラが嫉妬し、ぐずりながらもリヴァイに応えたいと言う。いじらしく、可愛らしい。


「不安なら幾らでも言葉にしてやる。だから泣くな」


そう言って抱き締めた小さな身体が僅かに震えぎゅう、としがみつく。どうか次にみる顔は泣き顔でなければいいと、ついていたテレビをそっと消した。








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