兵長と年の差婚 | ナノ


それはなんてことない仕草の一つだ。
仕事帰りのリヴァイが何の気無しに手を首元にやり、首を回す。こきこきと凝りの解れる音が聞こえる。例えその場しのぎでも解すのと解さないのではかなりの違いが生まれる。
やはり日頃の疲れが溜まっているのか、デスクワークが多いせいか若干目の奥も疲れているような気がした。
そう思い肩にやっていた手を目頭に充てがう。そんなリヴァイの様子を見てミラは洗濯物を畳んでいた手を止め、ソファに座るリヴァイの傍に静かに座った。


「リヴァイさん、お疲れですか?」

「いや、まぁ…そうだな。最近また人が減ってな」

「そうなんですか…」

「なに、今日ゆっくりしてりゃ大丈夫だ。心配するな」


そう言って優しくミラの頭を撫でるリヴァイだが、隠し切れていない疲労が窺える。
そんな不器用な旦那に「はい、そうですか」と言えるミラではない。しかし、どうしても埋めきれない年の差が大人と子供という立ち位置を生んでしまう。確かにミラは成人しているが、リヴァイからしたら子供も子供。だからなのかリヴァイは疲れていても疲れたと言わないし、残業で遅くなるようなら先に寝ていろと言う。
ミラとしてはそこはほんの少し不満に思うことだが、それはまたの機会に。


「………リヴァイさん!」

「ど、どうした、ミラ…」

「今日は…今日は私がします!」

「…………は?」


ぐっと握り拳をつくり、決意したような目でリヴァイを見つめるミラにリヴァイは素っ頓狂な声を上げた。


「いつも私がしてもらうばっかりだから今日こそは私がします!」

「……ミラ、お前…いいのか?」

「はい!任せてください!今日は私が上になりますね」


さあさあ!とリヴァイの背に手をやるミラにリヴァイは仄かに期待した。普段は恥ずかしいと言って中々行為に持ち込む迄が大変だというのに。恥ずかしがり屋な妻が疲れた旦那のために奉仕すると言う。なんといじらしく可愛いらしいのだろうか。


「はいはい。横になってくださいねー」


にこにこと笑いながらそう言うミラに従い、リヴァイは素直にソファに仰向けになる。普段とは違うシチュエーションのせいか、もう既に臨戦態勢の自分に若干苦笑いした。


「……あれ?」

「あぁ?」

「…なんで仰向けに?」

「あぁ?奉仕するって言ったのはミラだろうが」

「え?いや、確かに言いましたけど……」

「なら何も問題ねえだろうが。それともあれか。座った方がやりやすいか?」


そうか。確かにソファじゃ座った方がやりやすいだろう。密かに奉仕をするミラに悪戯をしてやろうなどと思っていたが、初めてするのだからやはりやりやすい態勢のがいいだろう。苦しそうに此方を見上げるミラを見るのも悪くない。そう思い、リヴァイはゆっくりと起き上がり、未だにキョトンとした表情のミラを床に座らせた。



「…え、あの……」

「ん?何だ、早くしてくれないのか?」

「え、と…肩揉みするのに何で床に…?」

「は?」

「え?」


首を傾げるミラと呆気にとられるリヴァイ。


「そうか、そうだよな。ミラがんな事言う筈がないよな」


リヴァイはそう言って何処か遠くを見つめた。
そうだ。よく考えれば分かった事ではないか。今まで一度たりもリヴァイのモノに触れたことがないミラがこんな真昼間から行為に及ぶなどおかしいではないか、と。


「えーと、肩揉みをするので床に俯せになって貰っていいですか?」

「……ああ」

「ちょっと痛いかもですけど効果テキメンなのでちょっと我慢してくださいね!」


喜び勇むミラとは真逆にどんよりと落ち込むリヴァイ。
床に俯せになりながらリヴァイは静かに深く溜め息をついた。持ち上げて叩き落とす。無自覚だから尚タチが悪い。よいしょ、と可愛らしい声の後に腰に乗る柔らかなミラの脚の感触に落ち込んでいた息子がまたむくりと起き上がりかけたその時、首に走った激痛にリヴァイは息子共々その勢いはかき消された。


「……ぅ、ぐっ……」

「あぁー、やっぱりリンパに老廃物が溜まってますね。まずはリンパの動きを直しますね」

「……ミラ、こ、れは…ぐ、……っ」

「今流行りのリンパマッサージです!整体やってる友達に教わったんですけど、凄く効くんですよー」

「だが、……っ、力入れすぎやしないか?」

「いえいえ、全く力は入ってませんよ?リヴァイさんやっぱりリンパの流れが悪いから肩凝りとかむくみがあるんですね。大丈夫です!私自分でもやりましたから任せてください!」

「お前、痛く…ぐっ、!」

「女の子は綺麗になるためならちょっとした痛みは我慢できるんですよー。ついでに背中もやりますねー」


そう言って容赦のないマッサージを再び開始するミラ。
首と背中に走る激痛がまさかこんな細く柔らかな指からもたらされると誰が予想出来ただろうか。
にこにこと笑みを浮かべながら奉仕をするミラに声にならない叫びを噛み締め、リヴァイにはラグを握り締めながら耐える道しか残されてはいなかった。

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