弄られ症候群

イルカショーのため客が捌けたと同時に、背後からバリバリと何かが割れる音がして、首根っこを捕まれ呼吸が止まるほど強く引かれる

ざぶん。と鼓膜を揺らしたのは一瞬で、その刹那先にはシンシンと無音に近くなった

たゆたゆ揺らぐ視界は、咄嗟に着けたゴーグルのお陰でなんとか確保されている

そらね、水族館に働けば、水槽内で仕事をすることもある(掃除とかありますしね)

ただ普通と違うのは、オルカアタックかまして何十センチもあるアクリル水槽破壊した挙げ句、水中に引きずり込んできて入水させられることとかですよね!

ちなみに、オルカアタックとはシャチ(イタリア語やスペイン語でシャチはオルカと言います)が獲物を捕獲するために全力で打ち当たってくるという凶悪な技

…シャチは最高時速60Kmで泳ぐので、体長からも考えて、普通自動車に襲われたようなもんです

さらにはマグロが全速力で水槽打ち割りながら円形の水槽フロアを追い回してきたり

セイウチに愚痴聞かされたり、カニが嫌味言いに来たり、鮫が絡んできたり

またさらには凶悪顔のタコに水槽に引きずり込まれ触手プレイされかけたり

ファンシーな一角(ご存知でしょうか。見た目は角の生えたイルカの様で、詳しい生態は不明。寒い海に住んでおり、実は角に見えるのは前歯が唇を突き破ったもの。二本の前歯うち片方が伸びるのが常なんですが、まれに二本とも伸びちゃうんだとか) に愛を語られたりだとか

他人に説明しても意味がわからないだろうし、頭オカシイと言われても仕方ない

しかし私が働きだしてからよくあること、これが日常なんですよ

水中でポケットから持ち運び用の小さな酸素ボンベを取出し、呼吸の確保をするくらいには水槽に引きずり込まれ慣れてる

そんな中で一番やっかいなのは、自動車並の突進や水族館の仲間たちではなく…

「ナガレ、今から金蔓…スポンサーがこちらに向かってくるらしい。準備しろ」

水中にも関わらず、はっきりと聞こえた声に頷く

彼こそがこの異様な水族館の館長であり、私を除く唯一の人間、四角い海の王様

逆らうものには鉄槌を!と掲げる我らが王様は今日も恐怖政治で、なにやら呪いを解こうと頑張っているそう

それはまぁ、私は好きで彼に付いてきたからいいんだ

ただ、なにがやっかいって

私を苛めるのが好きらしい彼は、文字通り命綱である酸素ボンベを取り上げて溺れさせるのが趣味なのである

今日も抵抗虚しく呼吸のすべを奪われ、仲間たちと館長が会議をしている間、彼に首根っこを確保されたまま海藻よろしく漂う

サカマタさんが哀れんだ視線を向けてくるのが居たたまれないんだが…

なら、私に愚痴を言うためにオルカアタックすんなし

文句は虚しく体内に蓄積され、酸素不足で呆気なく意識がぶっ飛びましたとさ



☆☆☆
みんな暇なときに水槽に引きずり込んで愚痴ってくるらしい
ちなみに、会議終了後は腹を踏んで無理やり水を吐かせた挙げ句、にやにや見下ろしながら館長が無理やり叩き起こしてくれるよ!

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