故にマスター
「私はへそ曲げました近づかないで下さい」
もう私のマスターではありません言うこと聞きませんし全部無視しちゃいますので今後一切私の上司面しないでください
そう事務室の隅に背中をぴったり付けて膝を抱えながら訴える
彼はいつもの無表情で、すこし威圧的にこちらを見ているだけだった
まぁそれが今さっきの言葉を撤回して土下座したいくらい恐いんですけど
無意識に体が震えるくらい恐いんですけど!
目を見たら多分負けるので、床を睨む
私だってたまには噛み付くんだ
こちらから折れる気なんてないんだから
カツンカツンと高そうな黒の革靴が、ゆっくりと音を鳴らして私の前までやってくる
床を睨む視線に、ノボリボスの特徴である黒が迫る
カツン
私の真前で止まったそれ
上から普段と変わらない声が
「……。ナガレ様…」
と途切れたから
「なんですか、マスター」
私も反射的にいつものように返すと、ゆっくりと屈み込んだ彼の顔が鼻先に来た
それはまぁ心底楽しいですと言わんばかりの、てめぇさてはクダリさんか!と言わんばかりの笑みでございました
「ナガレ様は、私を今『マスター』と呼びましたね?」
さきほどあんなにも沢山の言葉を並べられたのにも関わらず、やはりナガレ様は私のもののままなのでございます
「あ、あぅ」
あっという間の反抗であったなと悟る
両肩を捕まれ、頬に額にとキスを落とされ、ただ固まった私に彼は
「貴方様は私の部下であり仕事上のパートナーであり、それ以前に恋人なのでございます」
へそを曲げようが何をいたしましょうが、ナガレ様は私の所有物なのでございますから
はっきりと言い切った勢いで、床の角から私を引き上げて歩かせる
コンパスの違いで半ば引きずられている私に
「さぁ、仕事の時間でございます」
ナガレ様の運転でなければ、バトルに集中出来ませんので
そう前を見据えたまま早口に言ったマスターの耳が赤いのは、多分私の気のせいではないんだろうか
「負けても私の運転のせいにしないで下さいよ、マスター」
あたりまえです。と車両に乗り込み背筋を伸ばした彼は、やはり見惚れてしまうほど自慢のマスターだった
☆☆☆
いい夢を見せて頂きました。御馳走様でしたよ←
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[mokuji]
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