懐く飼い猫

あのね、最近入団した菊地君はよく頑張っていると思う

トイトイはあのボサボサどんくさい!ね、鈴木、どんくさいよね鈴木!鈴木?聞いてる?って

ロデオはあの新人はてんでダメだ、調教が足りん…って言うけど、そんなことないと思う

僕は前にいたサーカスでみんなにたくさん苛められて、ミチさんに助けられたんだけど

菊地君はそんな僕に

「大変だったね、ナガレ。失敗して怒られたりって、俺もよくあるから…」

わかったような事言ってごめん。と謝った彼は、すごく優しい目をしていたんだ

「あのね、菊地君。僕、菊地君と一緒にサーカス出たいな」

菊地君は頑張っているけど、まだ新人だから、ショーのお手伝いしか出来ないの

だからそう言ったんだけどね、菊地君は髪の毛をぐしゃぐしゃって掻き混ぜて、肩を狭めて

「え、俺なんかですいません」

って頭下げるの

「あのね、謝らなくてもいいと思うの…」

そっか。ごめんナガレ、ありがとうと笑った菊地君は、僕の尻尾を捕まえて、ブラッシングしてくれる

菊地君には尻尾がない

菊地君は人間で、僕は猫だもの

「ナガレは小さいのに凄いね。」

尻尾から遡ってきて、体もブラッシングしてくれる

その優しい手つきに自然と耳が下がってくのがわかって、気持ち良くなって彼の膝のうえでお腹を見せる

菊地君は目を細めて、撫でてくれた

僕はショーでね、ロデオや乗り物の上に乗ったり逆立ちしたりするんだ

ビャッコフの上は、流石に恐いから乗れないけれど…だってあいつは乱暴なんだ

でも、色んな事が出来ても、僕は少し嫌なの

だって僕は猫だから、菊地君とつがいになれないんだもの

「ナガレ、どうしたの?尻尾も耳も下がってる」

俺何かした?ごめん。と謝る彼には悪いけど、こればかりは僕の意志でもどうにもならないんだもの

ふよふよと無意識に揺れる尻尾を菊地君が手を伸ばして追い掛けてくる

尻尾を動かしてその手から逃がしたら、少し不満そうな顔されちゃった

「菊地君、あのね、僕は魔力で人の姿になったりお話できるようになったけどね」

まだやりたいことが沢山あるなんて、贅沢だよね。欲張りなのダメだよね

仰向けのまま彼を見ると、

「そんなことないと思うよ、ナガレ」

やりたいことがあるって、良いことだと思うんだ。って凄く綺麗に笑ってくれたんだ

菊地君がまた尻尾に視線を戻した隙に、起き上がって彼の頬に口付けてみる

そしたらやっぱり驚いて固まった菊地君の額を尻尾で撫でて、猫よろしく飛び上がって走りだす

小さなテントからでて、一番に見つけた大好きな背中に叫ぶ

「ハナちゃーん!あのね、あのね!」

どーしたの?と振り返ってバケツに片足を突っ込んだハナちゃんに、僕は飛びつく

少しよろめいたけど、しっかり受けとめてくれて、バケツがガシャンと鳴った

「あのねハナちゃん!菊地君は欲張りな僕でも良いんだって!僕、僕、頑張っちゃう」

興奮して爪を立ってちゃったみたいで、ハナちゃんに嗜められる

「だけどねナガレ、まずは一人称を『僕』から『私』に直してからだよ」

「…はぁい」



その後の飼い主の会

「鈴木さん、なんか最近ナガレが、…お、女の子っぽいというか…すいません」

「……あいつもトイトイもわりと素直だからなぁ」



☆☆☆
ナガレさんは三毛猫ちゃん
…♂は遺伝子上いないはずなのに産まれるんだから不思議


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