おおかみ子孫

私の弟たちが、知らない子供たちを連れて帰ってきた

人なんていない山奥の家に住んでいるので、人間、さらには子供の訪問なんて珍しい

その、知らない子供たちの頭の上に三角の耳とお尻にフサフサの尻尾があったのには、心底驚いたが

「あぁー、狼人間の子供…私ら以外にも生きていたんだ」

思わず呟くと、狼人間の姉弟は首を傾げていた

なに、君ら自分達の種族のこと知らないの?

狼人間がどれだけ希少な存在となり、どれだけ人に隠れて生きてきたのかを知らないのか…

私がまじまじと見たのがダメだったのか、女の子の後ろに男の子が隠れてしまう

こわがらせたかな…

弟たちいわく、活発そうな女の子は雪、おとなしそうな男の子は雨と言うそうだ

雪ちゃんは狼の姿になり、弟たちと庭を走りだし

雨君は所在なさそうにうろうろしだした

引っ込み思案そうだし、お姉ちゃんがどっか行って他人の私と一緒だなんて不安だろう

「あー、雨君、座る?」

とりあえず縁側を指差し、手を差し出すと握ってくれた

まじかわいいなおい。

縁側に腰掛け、走り回る弟たちと雪ちゃんを見守る

動きはまさに獣そのものだ

私も後で走るかな

「雨君は走らないの?」

隣に尋ねると、彼は何かを考えていたらしく、ゆっくりと口を開く

「狼は嫌われモノなの?」

「ん?」

「絵本とか、狼はやられたり殺されたりしちゃうから…僕達もそうなの?」

唐突な質問に、少し返答に詰まる

昔からお伽噺の悪い役としてお馴染みな狼…

それは、人間に昔から危害をなす生きものとして馴染みがあり、身近でわかりやすかったから選ばれただけであり

なんだったら猪でも狐でもよかったんだけどな…

でも彼が聞きたいのはそこではなくて、子供の質問だからと簡単に流していいものでもないんだ

「んー、君、お母さんいる?」

「うん。でも、お母さんは狼じゃないんだ」

「そっか。じゃあ、お母さんに聞いてごらん?私が答えるより、いい答えが聞けるよ」

笑って頭を撫でてやると、雨君は不思議そうに首を傾げる

彼の聞きたいことは、赤の他人がどうこう言うより大切な人が一言言ってあげるほうが嬉しいことだ

だからあえて答えず、濁す

直に秋になる山の風は、じりじりと焼け付いた肌を冷やしてくれる

「ナガレ!トカゲ捕まえたー!」

「私はカエル捕まえたー!」

「よくやった!いや、だからってそれは口に入れるな馬鹿っ」

両手に色んなものをうごうごさせながら叫んだ子供達に手を振ると、嬉しそうにきゃっきゃと叫んでまた走りだす

「ナガレさんは、」

「ん?」

袖を引かれて、隣に視線を戻すと、真ん丸の目とあう

「ナガレさん、人間だよね?」

匂いでわかったのか、質問ではなく確信を含んだ言葉に、また私は笑う

「お母さんがね、再婚した相手が狼人間だったんだ」

最初は驚いたさ

新しいお父さんは化け物なの!?なんて

でもさ、よく考えたらさ、狼人間だったってだけで嫌う要素がなかったんだもの

私は狼になれる君らが羨ましいな。違う世界が見えるんだろうな。と言うと、雨君はほんの少しだけど笑った

狼人間としての苦労もあるだろうけど、私みたいな理解者だっているんだから、胸はってしっかり生きろ



☆☆☆
いわゆる、劇場行ってきましたよ記念にございます

個人的に色々ご馳走様でした

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