他人を願う

「ねーN様。ゲーチス様のこと、どう思います?」

足元に敷かれた子供騙しな空模様に座り込む背中に問う

カラフルなレールを繋いだ上を走る電車のオモチャだけが沈黙を埋めるようにガタンゴトンガタンゴトン

スケートボードはN様がこの前バスケットゴールに投げ付けてしまい、絡まって落ちてこないため
使われないハーフパイプの真ん中で、私のトモダチのタブンネが丸くなっている

散らばったぬいぐるみにダーツにポスターにチェス盤にトランプに…数えきれないガラクタは、復数人で遊ぶためでなく、一人のために捧げられた献上品なんだ

その部屋の主人は、こちらを見たものの首を傾げて、答えない

あの面の皮が分厚い大男に、疑念も沸かぬ程思考を侵食されてるのか

なんだかそう思うと我らが王さまが、年相応の青年に見えて、余計に哀れだった

だから思わず口から言葉が零れた

「N様、どうかご自分を強くお持ちください。どうか傷つかずに、終焉を迎えてください」

「どうしてそんなことを言うのかい?」

「……。」

間髪入れずに返ってきた疑問に答えず、あえて無言を返す

王に対するものとしては不合格を通り越して、首を飛ばされたって文句も言えないだろう立場の私に
彼は困ったように眉を下げて笑う

早口で他人との関わり方もしらないくせに、他人を傷つけるのを極端に嫌う優しい人

ただの客よせパンダと知りつつ、彼を慕う部下が多いのも頷ける話

「タブンネ、N様の手を治してあげて」

ちょうど伸びをして起きてきたタブンネに頼むと、N様が大好きなタブンネは快く引き受けてくれる

「ありがとう」

私とタブンネ、どちらにも向けてのお礼に、タブンネだけが嬉しそうに答えた

人間にはただの鳴き声にしか聞こえないはずだけど、N様には意味をなした言葉に聞こえるんだ

スキップするようにタブンネが離れていくと、N様の座っていた場所に、さっきまで滴っていた赤が小さな泉となっていた

痛々しい赤

それは一人のものだけでなくて、先程までN様の腕の中で暴れていた小さな子のものでもある

「N様、傷は簡単に治るんです。心の傷だって、遅くとも塞がるんです」

「でも傷つけて良いわけじゃない。僕が助けてあげなければ」

「…私はN様に傷ついて欲しくありません」

N様は目を細めてこちらを見る

なにかの感情が見え隠れする瞳は、すぐにそらされて、タブンネやタブンネが眠らせた傷だらけの子に向けられる

「それでも僕は」

王様だから。英雄だから。みんなを導く役割だから

噛み締めるように出された言葉に、ため息を隠す

N様にとっての、N様以外が作り上げた狭い世界、狭い王国

滑稽に踊る舞台の外は、共存という彼の知らない言葉を掲げているのに…

「だから新しい理想と真実が見えるまで手伝ってくれるかい、」

ゾロア。と呼ばれた私は、傷跡だらけの彼の腕に抱き上げられる

彼には絶望を背負わずに生きてほしい

欲を言うなら、幸せになれ

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