怪しい負け組

「――っ!」

マスカットが突然茂みに身を隠して鳴いた

耳を澄ますと聞こえる近づいてくる声と足音に、慌ててベルの手を掴み、女の子を抱えて茂みに入る

「あんな新人トレーナーにやられるなんて!」

「しかし、育て屋から救い出したボールはここに全部っ…あ…。」

同士達の会話が途切れる

話の内容からして育て屋から奪ったボールが沢山入っているだろう大きな布袋を、マスカットがサイコキネシスで持ち上げたのだ

布袋はふよふよと空を飛んで、茫然と立ち尽くした団員に盗まれたお返しとばかりに体当たりを食らわす

さすが俺のパートナーだと声に出さずに誉めて頭を撫でてやると、マスカットは嬉しそうに目を細めた

その間も布袋が容赦なく体当たりを食らわしているという、えげつない光景は見なかったことにする

可愛い顔して容赦ないよね、パートナーよ

手持ちは恐らく少年達にやられてバトル出来ない状態なんだろう

そんな心細い状況になんとも不思議な怪奇現象に襲われた彼らは、情けない悲鳴を上げて脱兎のごとくその場から逃げ出す

目の前を駆け抜けていく近未来ファッションは幸いこちらに気が付かなかったようだ

その背中が見えなくなるまでしっかりと見送って、漸く安堵の息を吐く

「私のポケモンさん…その中にちゃんといるのかな…」

先程の逃げていく同士の背中に、マスカットと遊んでいた間は忘れていた盗まれたポケモンの存在を思い出したらしい

女の子が小さく震える声で呟くのが耳に届いて、額に冷や汗が滲んでくる

今、泣かれても俺すっげー困るわけよ

茂みから女の子を出して、何か言うべきかと口を開いた瞬間、ツタージャ少年とチェレンの姿が遠目だが確認できて

本日二回目の安堵の息を吐きだした



「お兄ちゃん達、ありがとう!」

そう手を降る女の子に、思わず笑みが浮かぶ

女の子のボールはチェレンがしっかりと奪い返していた

さすがというか何というか、プラズマ団を1人で追い掛けていっただけの実力はある

一番の年長者である俺が茂みでガサゴソやっていたのが非常に居たたまれないところではあるが。

ばいばいありがとうと手を振る女の子とベルを見送りながら、マスカットが落とした袋を捕まえ育て屋に向かう

チェレンとツタージャ少年は育て屋まで一緒に着いてくるんだそうだ

恐らくチェレンは、怪しい俺にボールを持たしておくのが不安なんだと思うが

そして怪しさを否定できない俺…なんだか悲しくなってくるな

ツタージャとなにやら話している少年を横目に、俺のまわりを楽しそうに飛び回るマスカットの頭を撫でる

「マスカット、俺そんなに怪しい?」

思わず呟くように尋ねると、ツタージャが馬鹿にしたように鼻を鳴らしたのが確かに聞こえて、がらにも無くちょっと落ち込みかけた

「ツタージャ少年、君のパートナーなんて?」

「えっと、とりあえず全部怪しいからそんなんで悩んでも意味ないんじゃない?と…ごめんなさい」

だめだ、落ち込んだ

マスカットが慰めるみたいに肩を叩く

顔が笑ってるけど。

チェレンからまで哀れみの視線を頂き、どちらかといえば消えたいです

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