とりあえず噛み砕く

電車は深夜帯まである。

バトルトレインともなれば、廃人が夜中にもかかわらずうようよといらっしゃるから困ったものだ

まぁ、バトルは嫌いじゃないし、僕の手持ちのヌケニンやヤミラミ、ジヘッドはどちらかといえば夜行性なので、夜通し戦ってもピンピンしているから良いけど。

しかしそうもいかないのはこの僕で、バトルで神経をすり減らした状態での夜勤は非常に身に応えるんだ

仮眠時間ともなれば仮眠室の簡素なベッドで、それこそ泥のように眠ってしまう

目覚まし時計に起こされて初めて、顔のうえにヤミラミ、お腹にジヘッド、足にヌケニンが乗っていたことに気が付いた…なんて毎回のお約束である

そもそもボールに入れて寝るのに、何故ボールから出てさらには僕の上で寝ているかなんて気にしないさ

今晩も今晩とて、若干の息苦しさと戦いながら仮眠時間を夢も見ずに睡眠を貪り、目覚まし時計の音に見送られて戦場に帰る

…はずだった

仮眠室に持ち込んだ僕の目覚まし時計の鳴り響くなか、僕の顔を見下ろしていたのは

手持ち達ではなく、双子のボスでした

「ジヘッド、かみくだく!」

と叫んだのはほぼ反射で、何か言おうと口を開きかけたクダリさんが悲鳴を上げる

あ、ノボリさん、さり気なく避けた

キィキィ鳴きながら、起き上がる僕の頭によじ登ってきたヤミラミは、ボスたちを威嚇している

ヌケニンだけが関与せずといった態度で…と言うかまだ寝てる?

二つの頭にガジガジやられているクダリさんを尻目に、ヤミラミと苦笑いして見つめ合っているノボリさんに

「何してたんですか…」

と尋ねてみる

ジヘッドを止めないのは、僕なりの抵抗である

「いえ、ハルト様の寝顔があまりにも可愛らしかったので」

見惚れておりました。などと、飄々と言ってのけるノボリさんに、顔が熱くなる

僕は男なのに、可愛いなんて…

「いつも眼鏡をかけていましたので…」

綺麗な長い睫毛をしてみえたのでございますね。なんて言いながら手を伸ばしてくる

指先で睫毛を掬われ、恥ずかしくなってヌケニンを捕まえて顔を隠す

なに?なんて聞きたそうなヌケニンには悪いが、こんな乙女なシチュエーションに耐えられるハートは持ち合わせていません

慌てて枕元の眼鏡を手探りで捜し当てるも、横から伸びてきた手が奪って持っていってしまう

「ハルトひどいっ!僕にはジヘッドけしかけて、ノボリとイチャイチャしてた」

ジヘッドを小脇に抱え、何故か眼鏡をかけてプンスカするクダリさんが可愛くて、笑ってしまう

「クダリさん、眼鏡似合いますね」

「…ノボリ、これ度が入ってない」

「おや?」

ニヤァと笑ったクダリさんから、ひょいとノボリさんが眼鏡をとりあげ、かける

「あ、あ、ダメです返して」

「ハルト様、なにがダメ、なのでございますか?」

眼鏡を指で押し上げながらぐいっと距離を詰められる

「ハルト、眼鏡無いほうが可愛い」

あぁ、二人とも顔が近い!!

二人の吐息を肌に受けながら、なんとか話す

「その、『可愛い』が嫌なん…」

です。と続けようとしたけど…あぁぁぁぁ、すごく良いバトルしたあとみたいに、二人ともにやにやしてらっしゃる

危機感を覚えると同時に、反射的に口が動く

「ジヘッド、噛み砕く」

案の定、聞こえた悲鳴は一人分だけで、華麗に牙を躱したノボリさんは、レンズ越しに目を細めて笑う

僕にとって女顔を隠すだけのアイテムが、似合う人には似合うんだからズルい

とりあえず

「ご馳走様です」

「?」

首を傾げたノボリさんと、ジヘッドに襲われるクダリさん

二人の眼鏡姿で、HP回復いたしました!



そして後日
「君のジヘッドいっぱい噛んだ!罰としてハルト、眼鏡禁止!!」
「あぁぁぁぁ、それだけはぁぁ」

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