進みと瞳
マスカットのサイコキネシスで、少女の幼い体が空を背景にして宙に浮かぶ
『――!』
「ほら、高い高ーい」
なんか楽しそうなマスカットに合わせて台詞をあてれば、少女は空中で泳ぐように手足をばたつかせる
「わぁ!もっと!」
「マスカット、頑張ってくれ」
『――!』
取り敢えずプラズマ団にこれ以上この二人が巻き込まれない為、護衛代わりに一緒に待っているのだが…
あまりにも不安そうに顔を歪ませる少女になんとも居たたまれなくなり、仕方なしにマスカットに一肌脱いでもらった
サイコキネシスで持ち上げた女の子を怯えないようにゆっくりと上下させるマスカットは、流石というか手慣れている
俺と一緒に卵から産まれたばかりのポケモンの世話等をやっていたからか、まだ幼いわりに世話焼きというか、子守り慣れしているらしい
普段俺以外との関わりが少ないためか、高い声で鳴いて嬉しそうにするマスカットに苦笑い…お前は子供好きね。
ベルも、頼りになる幼なじみだと言う二人…例のツタージャ少年とチェレンとやらがプラズマ団を追い掛けて行ったからか、落ち着いてくれたようである
よかったねと少女に笑いかける口元から覗く前歯が可愛らしい
視線に気が付いたか、はにかんだベルはボールから出したムンナを抱えながら
「あの二人はあたしよりもいっつも先に行けちゃうんです。あたしが困っていると、いつも助けてくれて、すぐに片付けちゃって…」
チェレンはきついことも言うけど。と付け足した彼女の目は、見た目の年齢よりも大分大人びて見える
ベルは一見おとなしそうで人の後ろに隠れてそうだが、自分の意識をしっかり持てる子なんだろう
俺の想像でしかないが、その隠れている背中の主、チェレンとやらは知識が豊富で器用
なんでも要領よくできる分、自分の手のひらの大きさがわかっていないタイプだろう
プラズマ団を大人も呼ばず1人で追い掛けていったのが良い例だ
この辺で任務している奴らは俺と同じく新入りの下っぱ、手持ちも捕まえたばったりの野生ポケモンばかり
それを知っていたから任せたが、もし俺が相手だったらどうするつもりなのか
数日前に旅に出たばかりのぺらっぺらな技術と絆で、俺の手持ちに勝てる確立などありはしない
チェレン同様に先程の行動を例に上げるなら、彼女は勝てない可能性を見越して俺に助けを求めた
俺は残念ながら悪人サイドな人物であったが、この場合彼女が出来る一番の安全策だったのではないだろうか
このベルという少女は助けられているが故に、自分の出来る範囲を理解している
助けられているが故に、必要なとき人に頼ることが出来る
チェレンのように要領良く一人で進められるのが強さとしても
ベルのように人と協力して進めていくのが弱さだと否定は出来ない
結局何が言いたいかといえば
「ベルちゃんも小さい子を助けようとして頑張ってて、偉いと思うよ。慌てずに自分のペースで進んでいきなよ」
少し低い位置にある大きな黄緑の帽子を乱暴に撫でる
俺と違って、この子は道を踏み外さないだろう
ゆっくりと遅くても、正しい道を進んで行ける
女の子の笑い声を聞きながら空を仰ぐ
どうして、俺はあんな道に進んだのだったか
誰かに頼り言っていれば、止めてくれた人物が一人くらいは居たかもしれない
さんざんチェレンを評価したが、所謂同族嫌悪も多少は入っている…素直に認めたくはないが
しばらく呆然と頭を撫でられていたが、思い出したようにへにゃりと笑って
「ありがとうございます…」
カナタさんは優しいんですね
そんな悪意の破片もない言葉をくれるから、心臓を締め付けられるような感覚を覚える
産まれたばかりのポケモンにも似た、純粋な瞳から無性に逃げ出したくなった
☆☆☆
何を見てるかわかんないくらい透明の目
吸い込まれそうで恐くって
でもとっても優しいから
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[mokuji]
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