夢と悪夢

ゲーチス様から直々にご命令があり、夢の煙を持って来いと数名の団員と共に言い渡された

いったい何に使うつもりなのか…

夢の煙とは、ムンナやムシャーナがだす特殊な煙であり、特別な力があるといわれている

その効果は生きものをリラックスさせて安眠させたり、また逆に身を守るために悪夢を見せたり

さらには夢の出来事を、僅かではあるが現実に反映させられるとか

まぁ詳しい効果やその使い道について調べているうちに、事故か何かで実験施設自体が吹き飛ばされ、結局は解らず仕舞い

俺みたいなキチガイ野郎が何をして、何匹のムンナやムシャーナが犠牲になり、吹き飛んだかなんて知らないし知りたくもねーが…

まさに様々な思惑の渦巻くあの場所は『夢』の『跡地』なわけだ

なるほど、カラクサタウンに来たのは新人トレーナーが多いからだけでなく、次の町にある夢の跡地も目的に入っていたのか。目ざとい

まぁ盛大なる勧誘会は、ツタージャつれた少年には逆効果だったようだが

そんなこんなで、反吐が出そうなこの場所でムンナやムシャーナを下っぱと探す俺

草が生えて割れたタイルの床に、所々残って支えの金属を露出させる壁や柱

申し訳程度に残った入り口に、塗装のハゲた屋根が辛うじて乗っているのが見える

「ホントに何があったのかねー?なぁ?」

『――?――?』

草を掻き分けてムンナを探していたマスカットが首を傾げながら戻ってくる

誰も知らないし、お前もわからないわなぁ

因みに、N様の護衛で出てきていた俺はプラーズマーな団服ではなく、一人だけ私服である

端から見たら、プラズマ団に一般人が紛れているように見えるだろうか

これだけの人数で押し掛ければ、どれだけ警戒心の薄いポケモンも逃げだすんじゃなかろうか…

『――!』

探すフリをして考え事をしていた俺の服の袖を引っ張り、マスカットが何かを訴えてくる

手持ちたちのボールもかたかたと揺れていた

「なに?そっちに行くの?」

早く早くとマスカットに急かされ、コンクリートの壁の向こうに出ると

「おらおら、夢の煙を出せ!」

とムンナを蹴る同士と

「何をするんだ!」

「やめたげてよぉ!」

数日前に見たお怒りのツタージャの少年と、泣きそうな女の子が見えた

『―――!』

ムンナの悲痛な、痛みに叫ぶ声が響く

プラズマ団と言えど、解放を真剣に謳うのは王子様と上層部の一部であったというのか

実際、頭が一つしかない組織での下の統率力なんてたかが知れている

王子様がこれを見たらなんというだろうか…

『――!』

マスカットが腕を掴んで揺する

冷静に状況を把握できていると思っていたのに、自分は耳を塞いで壁に背を預け、蹲っていた

視界まで潤んでいるじゃないか、情けない

『――っ!』

「あぁ、わかってる。わかってるよ。」

実験施設で麻酔もなく切り刻まれた、無理なバトルで傷ついたあいつらを思い出した訳じゃない、断じて

今さら酷い事をしただなんて謝罪しようが許されないのだから

よろよろと立ち上がり、ムンナ達をみると、何やら怯えて退散していく同士達

恐らく、夢の煙で悪夢を見せられたのであろう

ゲーチスの姿でも見たのか、顔を真っ青にして一目散に走り去る姿は、まさに特性にげあし。

ポケモンには暴力で優位に立つのに、たかが幻を見たくらいで間抜けなものである

ムンナもダメージを負ってはいるようだが、迎えに来たムシャーナとともに草むらの中へ消えていく

いっそ中途半端な罪悪感等、良心等、無くなってしまえば

「楽なのになー」

ムンナの無事を喜ぶように、マスカットは少し高い声で鳴いた



☆☆☆
「あいつらも酷い事をするよなぁー」

そう被害者に同情出来るだけの過去があれば

今だってあの少年少女のように、ムンナ達をすぐに助けられたかもしれないのにな

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