大男と内緒

今日も今日とて、新入り下っぱの俺はミネズミやヨーテリーの育成に励んでいる

とりあえずレベル上げだけでもさせてやろうと、組織内の無駄に広い廊下で模擬バトルを行っていると、ゆっくりと床に影が差した

『――!』

何か怖いのがきた!とでも言いたそうにして逃げたマスカットを尻目に後ろを振り返る

「あなたは、ポケモンの育成に関しての知識が深いと、N様が誉めておいででしたよ」

思っていたより近くに立っていたため、距離感を見誤り、僅かにふらつきながら顔を仰ぐと、見下した笑顔がそこにあった

あんた身長何センチあるんだよ

俺の可愛い可愛いパートナーが苦手意識を持つこの大男ことゲーチスに対する意見を、王子様から是非聞いてみたいものである

怯えて逃げたはずの緑が、小さなはしゃぎ回る茶色達と一緒になってバトルしている気がするが、恐らく目の錯覚なので気にしない

「ありがとうございます」

ととりあえず頭を下げ、様子を見る

影の王様が下っぱごときに何の御用でしょうか

「あなた、自分のことをあまり話したがらないそうですね」

N様にも、同僚にも

尋ねてきている風に見せて、答えを予め持っているかのような余裕

それがみえて、少し身構える

何を言いたい。何を言わせたい

こういう問いには、下手に答えない方が良い

大抵のバカは、自ら墓穴を掘るどころか、自分で中にはいって埋めるまでしてくれる

「いやー、秘密主義って格好良いじゃないですか。キャラ作りです」

笑って誤魔化したら、おもしろいですねその話はまた後日と流された

言外に、くだらねーこと言ってんじゃねーぞてめぇと言われているようだ

だってほら、隠されていない片目が笑ってない

イカツい人相の悪い大男に睨まれて怯まない人間は何人いるだろうか

俺は小心者なので、例外なく怯んでいます

ところで片目のそれスカウターですか?

お洒落ですね、ポケモンのVの数でも計るんですか素敵です

胡散臭い笑顔のまま華麗に舌打ちを決めたゲーチスは、俺に一枚の紙を見せた

「少し、私の部下に調べてもらいました」

勿体ぶって言われた言葉は頭に入ってこなかった

ご丁寧に、実験施設に入社した当日からの俺の行ってきた行為が並んでいる

幸いなのは、持ち出した資料が俺にとっての最重要事項であり、こちらの手元にあること

相手はそれを知らないことであろうか

しかし有利とは言い難い状況に、舌打ちを一つプレゼント

「過去の詮索は女性にモテない好意の一つであることはご存知でしょうか?ゲーチス様」

やはりあなたのことで間違いないようですねと白々しくぬけぬけと言いやがった王様を睨む

どの口が言うか、スカウターを外せ

「俺はこれからこのような行為を行う気はこれっぽっちもありません」

「そうですか、それは残念ですね」

これっぽっちも思っていないような態度で残念がったゲーチスは、思ったよりもあっさり退散していく

強力な新ポケモンの開発をまたやりたくなりましたら、場所や資金の提供はいつでも致しますので

そう言い残して遠ざかる背中を睨みながら、腰のボールを一つ床に落とす

出てきてすぐに指示を仰ぐように見上げてきたメラルバの焼林檎に、笑みが零れる

「燃やせ」

指示はただ一言

可愛い手持ち、焼林檎は俺が手放した紙を一瞬で灰に変えた

資料の隠し場所を変えなくては危ないかもしれない

バトルの最中であるヨーテリー達を集めながら、舌を打つ

あの糞じじぃめ、どうやって情報を集めやがったんだ

灰になった紙を、苛立ち蹴り飛ばした



☆☆☆
カナタさん、手持ちの名前が美味しそうです
マスカットにやきりんごと、統一性皆無である

[ 58/554 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -