実験と夢

暗い暗い、前や後ろ、上も下もわからない場所に一人で立っている

幸いなことに足がしっかりと何かを踏みしめているため、足場は存在しているようだ

ここは何処であろうか

真っ暗闇など、光を遮る…例えば地下などに簡単に作れる

何も捉えることのない目を開き、ゆっくりとまわりを観察する

暗やみのなかにチカチカと有りもしない光が瞬く

言っておくが気が狂って幻覚を見ているわけではない

目にだって毛細血管があり、何も見ないためにそれが目立ち見えるだけだとかなんとか

目が暗やみに慣れても何も見えない

否、何もないというべきか

ここは一体どこであろうか。

とりあえず手探りで進んでみようかと考え足を踏みだそうとしたとき

ギギギギギギと何か硬いものを引っ掻くような耳障りな音が響きだした

何かに導かれたかのように、本能的に空を見る

円形に、光が射し込んで来るのを見ながら、これが漸く夢だと気が付いた

冷静なフリした思考は、立派に機能停止

回るどころか空回りしていたようである

光が射して、自分のいる場所が露になる

自分を中心に円を描いた壁は、天井に近づくにつれて窄められていく

気付けば足場も僅かに斜めである

卵だ

自分は卵の底で、切り取られた殻の天辺を見つめていた

夢は自らの深層心理を表すと言うが、この夢の先に何が待ち受けているというのか

切り取られた殻の外を眺めていると、二本の巨大な金属の棒が、俺に向かってゆっくりと伸びてきた

逃げようと思うが、体の自由が利かない

声も出ない

金縛りにあったかのように、許された呼吸のみ繰り返し、棒の行方を見つめる

それは俺の腕を挟み込むと


ブチリともぎ取った



不思議と痛みもなかった

ただ、声も出ないが叫んでいた

俺の腕をどうするんだ!持っていくな!

俺の腕を、金属の棒は殻の外に運ぶと、誰のものかもわからない腕を代わりに持ってきて

俺の腕があった場所にはめ込む

一瞬だけ違和感を感じたがすぐにわからなくなった

なんだこれは

気付けば、涙が出ていた

なんだこれは。なんて尋ねずとも知っている

なんてことはない

俺が。この俺が。

ポケモンに対して、俺がしてきたことだ

優秀な親から何匹も子供を作り、優秀な部分のみを残し、他を交換していく

卵の中身を顕微鏡で覗き、ピンセットで優秀なパーツを組み合わせる

まるで機械を作るかのように

毎日どころか、一日に何度も何度も行ったことだ

止めてくれ、止めてくれ

ヤメテクレヤメテクレヤメテクレヤメテクレヤメテクレヤメテクレヤメテクレヤメテクレヤメテクレ

また金属の棒が降りてくる

次は俺をどうするつもりなんだ!

タスケテ…ダレカ…!

『――!』

「!?」

マスカットが心配そうに俺を見ている

ベッドの上で暫し放心したあと、マスカットを抱き締めた

安心したように鳴いて、背中を撫でてくれるパートナーに顔を埋める

嫌な夢だった

俺が出会ってきたポケモンは、みんな夢で見たようにされて産まれた

それはパートナーのマスカットも例外でない

卵を見ていた俺の目は、さぞ冷たかったに違いない

しかし、マスカットは俺に懐いて、今だって心配してくれている

罪悪感で変わりたいと願ったわけではないが…

過ちを犯してしまった後だが、命を命としっかりと認識できたのだから

出来るだけこいつらの幸せを願ってやりたい

例え偽善だとしても

「もぅ間違いたくないんだ」

『――』

パートナーは、意味もわからないだろう俺の呟きに同意するように鳴いて頷いた



☆☆☆
新ジャンル始めから闇落ちサイド

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