洗脳目と幸せ

王子様の部屋を出て、自分に割り当てられた部屋に向かう

「なぁ、お前にはどうみえた?」

この神殿をも思わせる巨大なアジトに似合わない小さな王子様の自室は、偽物の空模様の床にカラフルな壁で覆われていた

何かが暴れ回ったように傷だらけなあの部屋で、唯一綺麗な彼は、限られた空間でなにを見てきたのか

文字通り玩具箱をひっくり返したように物が散乱した部屋で、一心に遊んでいた彼は、少なくとも俺には異常にみえた

心だけを置き去りにし、体だけが成長したような

それでいて何も知らないわけでなく、子供らしくなくて、でもまっさらな…

そう、どちらかといえば無機質で機械的に思えた

ゲーチスとかいう大男のほうが、顔の皮を重ねすぎて原型はないが、よっぽど人間らしく見えた

『――?』

「ゴメンゴメン、わかんねーよね」

律儀に答えようと頭を捻るパートナーの緑色の膜を撫で、抱き締めてカバンを渡す

カバンの中身が大切なものだと知っているからか、大事そうに両腕で抱えてくれる

「あのね、王子様の目が、実験してた『あいつら』に見えたのよ」

実験施設で産まれ、外に世界があることも知らず

与えられるだけを真実と思わされたポケモン達とそっくりな目

思い出して身震いした

ポケモンの解放なんて無謀なこと、成し得るはずが無い

しかし何故組織を維持できるほどの人間が集まったかと言えば、俺みたいな人間が居たからか

俺を同士と呼ぶ虚ろな緑は、何を見てきたというのか

世界を変えるほどの、何を知ったというのだろうか

「マスカット」

『――?』

名前を呼べば、律儀に返事をしてくれるパートナーの腕にある鞄を見る

持ちだしたは良いが、未だ捨てられない重要事項の並んだ紙が大切に納まっている

俺はポケモンを救いたいとも思った。だからこれを持って逃げた

でも、今までの成果とも呼べるこの紙を捨てられないでいる

彼らの敵にも味方にも

どちらの立場にも立てる俺は、疑念を置き去るように歩くペースをあげる

王子様の目も、ポケモンの目も、呆気なく俺を追い詰めるだろう

今さら何をすれば罪滅ぼしになるというのか…



☆☆☆
哀れに人に使われるポケモンもいれば

幸せそうに寄り添うポケモンもいる

一概に幸せなんて言えないよ、王子様

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