Nとカナタ

いくら行き場が無かったといえ、変な団体に入ってしまった

プラズマ団とは、ポケモンの解放を促す組織なんだとか

七賢者とかゲーチスとかいうオッサン達が上司なんだとか

ボスの代わりに王子様がここを纏め、導いていて

その王子様はポケモンと話が出来るんだとか、様々

水色と白の統一ファッションを身に纏いながら、神殿のような組織の建物内を歩く

高い天井に豪華な装飾品が彩る壁、規則的に並んだ柱は、大理石の床を貫いて立っている

聞いて驚くなかれ、ここは四天王の居るリーグの真下を堀り、秘密裏に作られたのだとか

通り過ぎる同士たち(仮)に挨拶しながら、進む

王子様に、新入りのお披露目をするんだとか

言われた部屋に向けて黙々と歩く

ポケモンの言語を理解できる人間は、昔から少なからず居たという文献を見たことがある

もと研究者として真偽を調べたくはあるが、下手な事をして尻尾を捕まれるだなんてゴメンだ

それに…

「お前は俺を手伝ってくれていたから、この事喋るかもだしなー。秘密だぞ、マスカット」

『――?』

いつも持ち歩いている、資料の入ったカバンを叩くと、プワプワと浮いていたランクルスが首を傾げた

マスカットとは俺のランクルスの名前だ

ユニランの見た目が似ていたから、命名した

本人もとい本ポケモンも気に入っているようだし、改名はしなくていいだろう

今思えばゼリーとかソーダとかでも良かった

「今から王子様に会うんだ、余計なことは喋っちゃダメだぞ?」

『――!』

元気よく鳴いたパートナーの頭を撫でながら、目的の扉をノックする

ちなみに二回ノックはトイレで、正式には三回叩くのだとか

「どうぞ」

機械的な、感情の薄い声が呼んだ

少年とも呼べるだろう、幼さの残る声

勝手におっさんを想像していたから、僅かに怯んだ

『――』

「解ってるよ」

マスカットに促されて、扉を開ける

真っ先に飛び込んだのは、玩具玩具玩具

まるで子供部屋だった

空模様の部屋に、所狭しと様々な遊具が転がっている

今までの建物の神聖な空気を引きずっていた俺には、それらは異常に映る

その部屋の奥に緑色の髪を垂らした、想像したより小さな背中があった

白いカッターシャツに黒いズボンといった、至って普通な格好をしている

その背中は、壁に向けて一心にダーツを投げていた

『――』

「あ、」

呆然と立ち尽くす俺の傍から離れ、マスカットは王子様の背中に近寄っていく

王子様は、ダーツへの興味を一瞬で失ったように床へ落とす

素足すれすれの床に音を立てて刺さったそれを気に留める様子もなく、見えた横顔はマスカットを見つけて嬉しそうに見える

周りを浮遊するマスカットに腕を伸ばして、俺の存在など居ないように口を開いた

「へぇ、君はマスカットという名前なのか」

「!?」

王子様は知らないはずのパートナーの名前を呼んだ

「どうしてここへ?あぁそう、ゲーチスに言われたんだね。別にいいのに」

マスカットは王子様と話をしている

断片的な会話からそれが読み取れ、冷や汗をかいた手のひらが、鞄に僅かに跡を付ける

どーしよ。この王子様、本物だよ。ポケモンと喋ってる

「僕はN。君はカナタって言うんだね。」

マスカットに聞いたのだろう、俺の名を呼んで、漸くこちらを見て笑う

Nだなんて、記号的で人間につける名前とは思わないが、偽名なのであろうか

病的に白い肌に不釣り合いな、この世の不幸を溶かし込んだような深く沈んだ緑色の目が、俺の考えを鈍らせ停止させた

口元は弛んでいるが、瞳にはなんの感情も見えない

まるで、この世のすべてを見透かしているかのように
この状況を漠然とどこか他人事に傍観しているように、一切揺らぎもしない瞳に光は見えなかった

「僕は英雄になって、この世界を変えるんだ」

そのために、協力してね。と早口に紡がれた言葉に無言で頷き、頭を下げる

一定のスピードで、まるで決まった事柄をなぞるような無感情な目が、恐怖を掻き立てた



☆☆☆
ついで言うと、カナタは偽名

自分で、遠くまで逃げられるようにと名付けたのだ

マスカットはちゃんと約束を守ってくれたらしい


☆☆☆
カナタさんは、よく仕切っているゲーチスを王様と認識した様子
だからN様=王子様

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