永久就職?仕事人!
いつものベンチで通り過ぎた電車を見つめる
最近、同じ景色ばかり見つめる事に少し飽きたかもしれない
「…久しぶりに旅に出ようかなー」
『またぁ、突然どうしてぇ?』
くだらない呟きに、膝の上で欠伸をしていたふぅすけが律儀に反応してくれる
「なんとなくだよ」
『君がいいなら僕は何もいわないよ』
君がいるならいい
そう隣に座っていたサクマが笑って言ってくれるから、思わず抱きつく
ほんとに可愛いやつだ
「おまえらは?」
他の手持ち達にも聞いていると
「何のお話でございますか?」
背後にノボリさんがいらっしゃいました☆
焦って立ち上がろうとする前に、白い塊が俺の背中に飛び付いてくる
ベンチと俺に挟まれたサクマが痛いと鳴いた
「狂助、ここやめちゃうの!?」
ダメダメ!絶対ダメ!僕許さない!
抱きついて捲くしたてるクダリさんに何か弁解はしたいのだが、腕が力強く腹に食い込んでいるため、息が吸えない
『わわっ!狂助が死んじゃう』
と慌ててクダリさんを止めようとボールから出てきたメロリスが、あっという間にクダリさんの腕に巻き込まれていく
未だ痛い苦しいと唸るサクマが、そろそろ火を吹きそうだとなったとき
顎に人差し指をあてて考え事をしていたノボリさんが口を開いた
「ふむ。ならばバトルいたしましょう」
クダリさんの首根っこを掴んで立たせたノボリさんは、名案とばかりに頷く
「へ?」
惚ける俺をよそに、クダリさんは賛成賛成と笑った
「狂助勝ったら旅していい。でも」
僕達勝ったら行かせない!
双子のボスが、シンメトリーに人差し指を伸ばしてくる
たかが職員引き止めるだけだろうにとか、旅に出るってのも本気じゃないんですとか、思うこと言いたいことはあるが…
「どうしてこうなった」
俺の呟きに、知らないよ。とむくれたサクマが一鳴きした
二人に引きずられて乗せられたトレインで、俺は泣きそうになっていた
今まで、漫画とかドラマの演出でよくある、威圧感だけで竦むなんて事はないだろばーかと思っていた
…出来たら一生そう思っていたかったぞ俺は
目の前にいるオノノクスとアーケオスはオズとアーリズではなく、ボス達の手持ちだ
さらに後ろにシャンデラとシビルドンが構えていらっしゃる
これを死亡フラグと呼ばずしてなんと呼ぼうか
『OK、逃げようマスター。いまなら間に合うよ』
『どうするつもりだ狂助』
アーリズとオズがボールから、可哀想なものを見る目で俺を見上げてくる
いつもはこの辺でカシャカシャ言うはずの兵長でさえ、哀れむ目なのはいただけない
完璧に死亡フラグを皆が感じているらしい
恐る恐るとったボールが、汗で滑った
「やった!僕勝った!狂助ずっと一緒!」
「申し訳ありませんが、私共が勝ちましたので、旅に出るのは諦めていただけますか」
「…まぁ約束ですので」
座席に座り込みいじける俺を見て、ボスたちは笑う
あんな一方的なバトルは久しぶりだった
まさに瞬殺。以前も負けたが、それよりも呆気なくやられた。悔しい
へばった手持ち達のボールを撫でていると、白い塊が飛び付いてきて、気付けばクダリさんに抱き締められた
「狂助!狂助!」
「狂助じゃないですけど何ですか」
「狂助はとても強い、優しい」
「!?」
ガタンゴトンと変わらず揺れている車内
何か言おうと口を開くが、無邪気で子供っぽいと思っていたクダリさんの、大人な優しい目に、何も言えなくなる
「狂助、とっても頑張り屋さん。僕、狂助のこと好き」
「クダリさん…」
「申し訳ございませんが、狂助様の就職先はこれからも我らがギアステーションのみとなっております」
これからもよろしくお願い致します
クダリさんに頭を撫でられ、ノボリさんに微笑まれ、俺はここに永久就職していたらしいと悟る
「悪いな、そーゆーことで、旅する予定はなくなったわ、オズ」
パートナーに言うと、オズは笑った
『お前の好きにしろ』
お前のパートナーになったときから、お前に着いていくと決めたんだ
誇らしげに言ったオズに続き、手持ち皆が頷く
そろそろサボりは止めて、真面目に働こうと思います
END
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