バイトかパシリか、仕事人!
柵に囲まれた、暖かな日ざしが差す広間は、ポケモンの賑やかな遊び場と化している
オズが図鑑に登録されているのより一回り小さなポケモンに囲まれて遊ばれる背中を眺めながら、端っこで欠伸を一つ
本日の背景はバトルサブウェイではなく、育て屋
しかも客ではなく…
「狂助!その子達にご飯あげてくれやん?」
変態孫娘のパシリである
騒がしいのが苦手なサクマは早々とボールに引きこもり
オズとメロリス、ふぅすけが子供のちっさいポケモンと遊んでいた
ちなみに、アーリズと兵長は木の上から、文字どおり高みの見物である
変態に渡された木の実の入った籠を持ち上げ、屋外の小さな草原に運ぶ
『取り合うな、まだまだあるぞ』
地面に置くと同時にさっそく喧嘩を始めた子供達を宥める目は、巨体に似合わず優しい
「いいお父さんだな、オズ」
その大きな背中を撫でていると、兵長がカシャンと顎を鳴らした
触角で、俺の後ろを指している
変態孫娘が立っているのか?と後ろを見ると
「狂助様、何をしているのでございまし。」
予想外に上司が立っていましたとさっ☆
アーリズが笑う声が頭上から降ってくる
『マスターすごい顔』
『きっとぉびっくりしてるんだよぉ』
何がおもしろいのか、笑い声にふぅすけのものまで加わる
…とりあえず後で覚えてろよ
「いやぁ…ここの孫にパシられまして」
「彼女とは知り合いでございますか?」
目にいろんな意味で毒な私服姿のボス、ノボリさんは首をかしげて心底不思議そう
…だと思う。表情変わってないから
オズがモンメンを頭に乗せながら苦笑しているのがみえる
「あ〜…にんげんふしんの時期に世話になったといいますか」
なんとなく最後を濁して誤魔化してみる
ちょっとした黒歴史だから、あんま話したくないんだけど
少し困ってノボリさんを見上げていると、後ろから足音が聞こえてきた
「ロメオ、その卵はこっちに…あれ、ノボリさんやん。お久しぶりですね」
卵の入った籠を4つの腕に抱えたカイリキー、ロメオが頭を下げる前で、クルミルやチュリネ、ヨーテリーを抱え従えた変態孫娘が挨拶をする
こいつのまともな話し言葉に違和感を覚えるんだが
頭に乗せていたチラーミィが落ちかけて非難するように鳴き、ごめんて。と軽く宥める
ズボンの裾をモノズのアルテが噛んでいたが、やはり注意はせずにそのままにさせてやっていた
そんな微笑ましい様子に表情を少しだけ緩めて、華麗に一礼するノボリさんは、やっぱりイケメンの一言
「お久しぶりでございます、卵を引き取りにきました」
「あぁ!ちょうどロメオが持っとる子達です。ロメオ、渡したって」
『……。』
指示された巨体がゆっくりと一本の腕を伸ばして籠を差し出し、包み込むように受け取られた卵は、艶も良く健康だと一目でわかる
「変態の癖に、腕だけは確かだよな」
思わず呟くとアルテがこちらに威嚇してきた
それを宥めながら、変態て。と抱えていたポケモン達を地面に下ろして笑う
子供のポケモン達が一斉に広間に走り出ていくのを見送ってから、
「卵もポケモンやからね、優しく接したるのは当たり前や
確かにえぇ能力の欲しがる人も多いけど」
産まれてきた子の責任も持てへん人に、その子をどうこうする資格はあらへんよ
立ち上がり、目を細めて育て屋の庭を見つめる彼女の頭のうえで、チラーミィがなんだか誇らしそうにしている
ロメオもトレーナーに似た慈愛に満ちた眼差しを持っていることに、今気が付いた
「やっぱり貴女様は、腕の良い育て屋でございまし」
卵を抱えなおしたノボリさんもスッと目を細めて眩しそうに笑う
「良い子が産まれてきそうでございますね」
そうお世辞でもなく素直に口から出たであろう言葉に
そりゃ私とロメオが世話してるんやから当たり前です。と彼女も笑った
☆☆☆
「ところで、アルテがずっとズボンの裾を噛んでるが」
「目が見えにくいからかな、私の確認をしてるみたいやわ」
「なんだか嬉しそうにございますね」
「私以外にはしやへんのです!なついとる証拠みたいなものやでね。」
「あ、破れたぞ」
「……。」
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