感動の再会だね、小エビちゃん

「本当にこのタコの子が監督生なんですか?」

「アズール先輩の隠し子じゃなくってぇ?」

デュースとエースがまじまじと子ダコを見下ろしつつそう言う。

モーガンはちょっぴりムッとした

まぁ確かに、逆の立場だったらまず疑う。元オクタヴィネル寮の生徒が連れているのなら尚更疑う

それに加えて彼らはイソギンチャク奴隷経験者なので、アズールとジェイドとフロイドの言葉は絶対に疑う。

騙されて不当契約されたトラウマは何年経とうと癒えない。例え半分以上自業自得だとしても

怪しい勧誘や恩の押し売り、対価の容赦ない取り立ての実績を誇るので信用の無さがピカイチだ。

フロイドに聞かれれば、そんなピカイチいらねぇから。と一蹴されそうだが

「この癖毛…アズールと似てるんだゾ」

グリムがそういうと、モーガンはぷっくりと頬を膨らませた。

フロイドはそれは前世の小エビちゃんからの引き継ぎだけどなぁと柔らかな髪に触れる。

フワフワで、絡まりやすくて細い毛。絶対可愛いし、オレがお手入れするから伸ばしてってお願いしたっけなぁ。

髪を伸ばした小エビちゃんはやっぱり可愛くて、ヘアアレンジも沢山覚えた。この身体でも髪を伸ばしてくれると嬉しいんだけど

ちょっぴり面倒臭がりの小エビちゃんのお手入れはフロイドの役だった

長い髪を引っ張らないように優しく梳かすのも、シャワーの後にヘアオイルをつけて乾かしてやるのも、出来る限りフロイドがやっていた。

「小エビちゃんったら、オレがほっといたらタオル巻いて乾かさずに寝るんだよ。有り得なくね?」とジェイドとアズールに愚痴りつつ、ヘアアレンジの雑誌をペラリと捲るフロイドを見て、2人は顔を見合わせ苦笑いした

自分なんぞ犬のように頭を振って、拭くことすらしないで終わりにするくせに、番のことは随分甘やかしているようだと。

他のことには飽き性のクセに、番が可愛く綺麗になる手間は惜しまない

あとで髪飾り買ってあげよ。また伸ばしてって頼んでみようかなぁ。オレに髪のお手入れされてる小エビちゃん、すぐうとうとしちゃって可愛いんだよなぁ

なーんて、慈しみたっぷり。甘々のフロイドの眼差しを見れば、この子ダコが恋人の監督生だとすぐに気が付きそうなものだが…

かつての退学RTA組は小さなタコに夢中でそれに気が付かないらしい

「そう言われればそうだな…。アーシェングロット先輩の隠し子っぽい…?」

「やっぱり隠し子なんじゃん」

「アズールの隠し子で決定なんだゾ!」

デュースとエースに続きかつての相棒までそんなことを言うもんだから、子ダコはギュルギュルと不満そうに喉を鳴らす

「んっふふふ、言われてんよ、小エビちゃん。」

「ぎぃぃ。」

わかる。死んだはずの友達が急に転生して帰ってきたなんて言われて信用出来ないのはわかる。

でも、ちょっとでも信じたから来てくれたんじゃないの?マブ達よ!!

アズールの隠し子で確定するんじゃない!まぁ、戸籍上は娘になりましたけど!

「酷いねぇ、小エビちゃん。俺らなんて小エビちゃんが生まれ変わったってすぐ見抜いたのにねぇ。オトモダチなのにカニちゃん達わかんねぇーんだってぇ」

フロイドはそれはもう楽しそうに歯をむき出してニコニコしている。

ラッコちゃんから連絡を貰って直ぐに俺らに確認して慌ててすっ飛んできたくせにねぇ。素直じゃないよね、こいつら。

あとちょっと目を伏せて機嫌悪い小エビちゃん可愛い。

フロイドはすーりすーりと柔らかい髪に頬を擦り付ける

モーガンはしばらくグルグルと唸っていたが、すんと無表情になる

その怒り方がフロイドに似ていて、エースはちょっとびくりと肩を跳ねさせた。そーいや、監督生もそういう顔するんだったわ

あ、なんか不味いかも。と思うと同時に

「……バラの迷路を3回右に曲がった突き当たりの木の根元…。ゲーミングローズ事件」

とボソッとモーガンは呟いた。子ダコらしからぬ低ーい声が翻訳機で変換されて彼らに届く。

思わずエースの顔が引き攣った。おいおいおい。フロイド先輩の前でそれ言う?

「3階のお喋りな絵画…サバナクローマジホイ滑走バトル」

「んぎっ」

今度はデュースがビクリする

「オンボロ寮の使われてない奥の部屋…ゴースト1人多く無いか事件…」

「ふなっ?!」

三者三様、露骨に焦って冷や汗をダラダラ浮かべて焦り始める。

フロイドはニンマリ笑って

「なぁに?今の」

と小さな番に尋ねる。モーガンはいつもの調子でにっこり笑って、フロイドを見上げた

「私が監督生だった証拠です。ねぇ、エース、デュース、グリム」

エースはちょっぴり頬を引き攣らせたまま二ヘラと笑う

監督生と自分、もしくは自分らだけの秘密だ。別名エース達の「弱み」

魔法も使えない女の子だが、ナイトレイブンカレッジでは猛獣使いと呼ばれていた。見た目も肉体も男に遥か及ばずか弱かったが、そこで終わらないがこの監督生

一癖も二癖もあるナイトレイブンカレッジで揉まれた結果、非常に逞しく成長したのである

主に図太さと、オクタヴィネル寮仕込みの陰湿な情報面で。

力と牙以外にも、戦う術はある…とレオナもよく言っていた。…が、マブ達に言わせれば多分そういう意味じゃない。

「…間違いない、本当に監督生だ。……監督生ー!!よく戻ってきた!!」

「子分ー!!!」

さっきまでの疑いようは何処へやら、デュースとグリムが小さなタコをギュッと抱き締め、ベソベソと泣き始める

「え?え?急に?」

あまりの変わり身の速さについていけず、感動の再会を逃してしまった監督生に、フロイドはぶふっと吹き出した

困惑顔の番の丸い頭を撫でる

「そいつらさぁ、ラッコちゃんから連絡貰って、無理やり仕事休んですっ飛んで来たんだよ。素直じゃないよねぇ」

「あー、そういうのは言いっこなしっすよ、フロイド先輩」

エースが苦笑いしつつ、デュースとグリムを引き剥がす。

「人魚の番にベタベタすんな。殺されんぞ」

「カンドーの再会だし、最初だけは許してあげる。オレ優しいから〜」

「ずびっ。すんません、リーチ先輩。」

「子分、生きてて良かったんだぞ…」

「私も久しぶりにみんなと会えて嬉しいよ。」

監督生はちょっぴり苦笑いしつつ、少し離れた2人の頭を小さな手で撫でた。そして

「…エースはハグしてくれないの?」

なんて、ちょっぴり悪い顔して微笑んでみせる

あーあ、その顔。俺らと一緒にタルトつまみ食いした時と同じ顔ね。

ケイト先輩に写真撮られてて、リドル寮長に仲良く首を跳ねられたし、トレイ副寮長に仲良くタルト作りの刑にあった。センチメンタルな思い出いっぱいでヤになるわ。ホント

エースはゴン。とテーブルに額を落とす。

泣くとかマジねーわ。なんで本人はそんなほのぼのしてんの。なんなのコイツ。俺らがどんな思いで報せを聞いたか知らないクセに

「お前、ある日急に死んだとか言われて、マジ最悪だったんだからな。」

エースは机に伏せたまま、絞り出すように言った

「うん」

「フロイド先輩達が全部片付けちまった後でお別れも出来なかったし、あの日お前に課題見せてもらう予定だったから本当に散々でさぁ」

「うん」

「デュースもぎゃん泣きだし、グリムなんて責任感じてボロ雑巾だし…。寮長達もすっげー泣いてたかんな。」

「うん」

「ジャックもセベクも意味もなく走り出していなくなるし、エペルなんて泣きすぎて方言で何言ってるかわかんねぇし、それでヴィル先輩にしばかれてたし。」

「うん」

「勝手に居なくなってんじゃねーよ、バーカ。」

「うん、ごめんね。エース、ごめんね。デュースも、グリムも」

「もう2度目はねぇからな。バカ監督生。」

エースは顔をあげない。ちょっぴり震える声と、きゅっと握られた拳に、モーガンも涙腺が緩む

テラコッタ色の髪を撫でると、顔を上げたエースにギュッと抱き締められた

「……ホントに、あんなんが終わりにならなくて良かった。」

蚊の鳴くような声だった。エースの瞳から大粒の涙が落ちる。こんなに素直にボロボロと泣くのは初めて見た

「ごめんね」

実感がなかったけど、私はある日急にみんなを残して死んじゃった。きっとすごく心配させて、悲しませてしまったんだ。

それは実際に見てないから想像するしかないけれど、仲が良かった3人の泣き顔に、モーガンはもう一度

「本当に、ごめんね。」

と言う

「おかえり、監督生」

「おかえり」

「よく戻ったんだぞ、子分」

かつてのマブ達は、泣き笑いでギュッと抱きしめ合う。マブ団子の出来上がりだ。

フロイドはちょっぴり目を蕩けさせて

「あーあ、オレの番泣かせるなんて。オレも絞めちゃおー」

とマブ団子の上からギュッと優しく抱きしめた



「それにしても、引っ付きすぎなんだよなぁ」

フロイドはマブ団子から小エビちゃんを取り出して机の上に下ろしてから、もう一度ぎゅっと抱き締める

先程のような愛ある抱擁ではなく、絞め落とす勢いだ

「いだだだだ!!!」

「ちょっ!絞まってる!!ギブギブ!!!」

「ぶなぁぁぁ!!!助けろ子分!!」

「小エビちゃんに何時までもベタベタしてんじゃねぇよ。それに泣かすとかアウト。気絶したら許してあげるね!」

フロイドにしては番のオトモダチなのでだーいぶ譲歩してやったのだ。例え理不尽の極みのような条件だとしても。

「はぁそれ死刑宣告じゃねぇか!!いだだだだ!!あ、無理、フロイド先輩が2人に見える…」

「おやおや、僕はフロイドではありませんよ。」

店の方からゆっくりと歩いて戻ってきたジェイドはにっこり笑って、フロイドが締め上げる元イソギンチャク達を眺める

「監督生さんは、いいお友達を持ちましたね」

机の上にペタンと足を伸ばして、小さな手のひらで涙を拭っていたモーガンにハンカチを差し出す

彼らは懐かしのスカラビア監禁事件の時のように、今回も彼女の為に何もかも投げ出してすっ飛んできたのだ

「うふふふ、自慢のマブダチですから」

「羨ましいことです」

子ダコとジェイドは目元を緩ませて微笑み合う

「がんどぐぜー!!!どめろー!!」

エースの必死な声に目を向けると、顔色が大変なことになっていた

そろそろ白目を剥き始めたデュースと泡を吹きそうなグリムに、モーガンはケタケタ笑う

「フロイドさん、そろそろスッキリしました?もぅ許してあげてください」

「んー?あ、小エビちゃん笑ってんじゃん。じゃあもう終わりにしてあげよっ」

パッと腕を離すと、3人とも地面へと崩れ落ちる

「もっと早く助けろよ!」

「子分、性格悪くなったんだゾ!!」

「危うく川を渡るところだった…」

自由になるなり早速文句を言ったり騒がしくなり始めたマブ共と監督生を見つめ、フロイドは頬を緩める

そーそー、こいつらはメソメソしてないでこーじゃなきゃね。

「面倒見が良くなりましたね、フロイド。良い父親になりそうです」

なんてジェイドが揶揄うように笑う

フロイドは

「少なくとも10年後かぁ」

と空を仰いだ。早く大きくなって欲しい。マジで。

ぎゃんぎゃん喧しくしているエース達を眺め

「小エビちゃんに似た女の子がいいなぁ」

等と、誰に言うでもなく呟いた

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