木漏れ日とキスと正体
木漏れ日さえ僅かな森の中、鳥ポケモンや虫ポケモンの羽音が頭上を時折通過していく
『ハルト、本当にこれでよかったのかい?』
「何がだい?」
ここ何日か動きっぱなしだったからか、足は棒みたいだし目の前は霞んでいる
酸素の足りない頭で、横を歩くパートナーの言葉にすっとぼけてみたけれど長い付き合いだ、僕が目を合わせない時点で負けと同じ
艶やかで草に似た優しい緑が僕の足に巻き付き、そのおかげで地面に濃厚なキスをさせられてからそのことに気が付いた
いくら疲労で頭が回らないとはいえ、我ながら遅い
『…わかってて言ってるでしょ。ハルトのくせに、怒るよ』
「…それはもう怒ってるって言うんだよ」
体を起こし、土を払いながら言い返すと鋭く睨まれた
今まで沢山バトルしてきて指示してきたけれど、自分がされる蛇睨みはすごく迫力があって威圧的だった
心臓が縮むような錯覚を覚える
『誰にも告げずに、逃げるように旅に出て。これじゃあ、あいつと一緒じゃないか』
あいつ。その言葉がさす人物を思い浮べると、違う意味で心臓が縮んだ気がした
「一緒じゃないよ」
『どこがだ?周りに、君がしたあの想いをさせる!一緒じゃないか!』
「違う!」
ムキになって叫ぶように否定した僕を、ジャローダの赤い目は睨んだまま一切怯みもしなかった
『なら言ってごらん。隠さないで、一人で悩まないで。ハルトと僕はトナーでしょ?』
ジャローダが目元を少し和らげたのが最後、目の前が霞んで見えなくなって、口から嗚咽と本音が零れだしていた
僕はずっと思っていた
彼を自由にしてやれた気になって
縛っているのは僕だった
彼にとって、なんとか団とかゲーチスとかじゃなくて
「鳥籠はきっと、僕なんだ」
ジャローダに抱きつく
僅かだった木漏れ日も、今は一つも射してない
☆☆
エゴとそれを呼んだら
何をエゴでないと言い切れるのか
誰にもわからないよね
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