朝と出会いはミントの香り

まだ朝日が顔を出さない、少しだけ明るくなってきた時間帯。

整理整頓された部屋の主が、目覚まし時計に起こされ、小さく伸びをした

名残惜しそうに布団の温もりから抜け出し、まだ眠っているパートナーのデンリュウの角を軽く撫でる

ベッドに顎を載せてもたれ掛かるデンリュウは夢心地で口元を緩ませ、幸せそうに寝返りを打った

それを微笑ましく眺めながら、いつものように身支度をすまして軽く波打つ髪を鏡の前で纏める。

ほつれが無いかうなじを確かめてから、花飾りのついた髪留めで仕上げる

花飾りは、いつもと同じズミの花...控えめで清楚な印象を受ける白い花がついた髪留めは、彼女のお気に入りなのだ

慣れた手つきで棚からポットを取り出し、いくつかの小瓶を取り出す。

小瓶には彼女がブレンドした茶葉が入っている。

小瓶をひとつひとつ手に取り、蓋を取って香りを確かめる。そうやって、今朝の気分に相応しい1杯を選ぶのだ

小瓶を一つだけ残して棚に戻し、ヤカンを手に取る

コンロでお湯を沸かし、その間に窓際においてあるブリキのジョウロに水を入れる

窓を開け、まだ冷たく澄んでいる空気を深く吸い込む。

窓際の小さなバルコニーに置かれたミントのプランターに水をあげ、何枚か葉を摘む

彼女は、朝にミントティーをいれる習慣があるのだ

この香りを嗅いで、彼女のポケモン達は目を覚ます

「...?」

ふいに、ナガレはミントを摘む手を止める

屋根の近くに、赤いギザギザしたものが動いていることに気が付いたのだ

眺めることしばし。空中に浮いているギザギザ模様は、ミントのプランターの上を行ったり来たりするばかりで、立ち退く様子はない

恐る恐る手を伸ばすと、何も無い空間に指先が当たり、そして触れたところから空気に色がついていく

どんどん広がった色が、小さなポケモンの姿を型どっていった

『 ―――』

「.........。」

1匹のポケモンと、1人の女性が困った様に見つめあう

『 ―――?』

早めに目を覚ましたケロマツが、窓際で見つめ合うそれを不思議そうに眺めてケロリと鳴いた



「oh......ニンジャ...」

朝早く職場に訪れたズミは、思わずポツリと呟いた

視線の先には、いつものようにケロムースで床掃除をしているケロマツと、いつものように茶葉やスパイス類を整理しているナガレの姿

それと、首にスカーフを巻いたカクレオンが天井を這い回っていた

カクレオンの手にもケロムースがあり、彼もしくは彼女は換気扇やライトの清掃をしているらしい

「ナガレ」

「おはようございます、ズミシェフ」

「その...このカクレオンは、あなたのポケモンですか?」

「あぁ、この子は」

朝、ミントの匂いを、嗅ぎに来てたんです。

「そのまま、ケロマツと、気があったみたいで、ついてきちゃいました」

「おや」

ズミの姿に気が付いたケロマツがいつものようにとれたての汚れを見せて誇らしげに胸を張り、それを見たカクレオンも倣ってか黒くなったケロムースを見せつけに来る

どうしてこうも静かで大人しい(そして忍者っぽい)ポケモンが集まってくるのだろうか

2匹の頭を撫でて褒めてやりながら、ぼんやりとズミは考える

「折角なので、今朝、摘んだばかりの、ミントで、ミントティーを淹れました」

よければどうぞ、と微笑むナガレにズミは考えるのをやめた

「そういえば、なぜスカーフを?」

カクレオンの首元にある白いスカーフを指指すと、カクレオンが自慢げにスカーフの端を指さす

「ケロマツのワッペン...」

「このカクレオン、女の子、なんですよ」

「なるほど」

ズミは軽く肩を揺らして、ナガレもわかりやすく笑った



[ 174/554 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -