仕事の事情

ルガルガンには進化する時間帯により、2つの姿が確認されている。

素早い動きで敵を翻弄して軽やかに戦う真昼の姿と、相手の攻撃を受け止め重いカウンターを浴びせる真夜中の姿だ

どちらとも物理の技を得意としており、タイプ一致の岩技は威力が高く抜群ダメージを取りやすい

「ルガルガン!ストーンエッジ!!」

主の声を聞き、赤い毛並みの獣...真夜中の姿のルガルガンが大きく吠えて、握った拳を地面に叩きつける

それに応えるような僅かな地響きののち、突起した巨大な岩石が足元から襲いかかる。鋭い刃物のようなそれに当たれば、ただでは済まない

命中は低いが、当たれば大ダメージを与える大技なのだ

ルガルガンは紅の瞳でジロリと敵を睨み、いつでも笑っているような緩んだ口元を引き締める

睨む先の相手...グソクムシャにとって、いわタイプの技は効果抜群。ストーンエッジが決まれば勝負の行方も決まる

しかし、グソクムシャとて致命傷となる技を棒立ちで受けるわけはない。回避に備えて、敵を見据えたまま構える

「アクアジェットで跳べ!」

ナガレの指示が飛ぶ。それに対する反応は、まるで予想していたかのように早かった

水を噴射する勢いで、迫り来る鋭利な岩を弾きながら飛び上がる

「そのまま突撃!」

シザークロス!と続く指示に、グソクムシャは空中で身を翻して地上に向かって両腕を構える

重力と自身の体重をあわせた文字通り重い一撃だ

落ちてくる巨体に、ルガルガンは怯むことなく笑みを浮かべる。彼のトレーナーも同じく笑みを浮かべていた

真夜中の姿のルガルガンの得意な戦法は「肉を切らせて骨を断つ」だ

「カウンター!」

「グソクムシャ!!」

『 ―――!!!』

繰り出された鋭い爪を甲殻でなんとか受け止めて、グソクムシャはナガレの元に戻ってくる。特性が発動したらしい

恐らく、直撃していたら、瀕死になる程のダメージだっただろう...ナガレは冷や汗を浮かべながら笑う

「...いやぁ、これは久々に燃えるね、グソクムシャ」

『 ―――。』

今日の接待バトルの相手は他地方の大手の副社長らしく、普段以上にナガレとグソクムシャは気を張らなければならない

油断をしているつもりは無いが、ほんの少しでも気を抜けばあっという間にやられてしまいそうになる

相手を楽しませるエンターテインメントとしてのバトルなので、ナガレが勝つ訳にはいけないが...

「にしても、強いなぁ...」

とナガレは呟く。ここまで苦戦させられるのは久方振りだった

「岩雪崩!」

「シザークロスで打ち返せ!」

ルガルガンの打ち出した岩石を、両手の爪が勢いよく弾き返す

打ち返された岩と打ち出される岩が弾きあって砕けていく

ガギンガギンと耳障りな鈍い音が何度か響いたが、次第にタイプ相性のためか技の威力に差が出始めた

ジリジリと後退させられ、そのうち腕を弾かれたグソクムシャは、ついにまともに技を受けてしまった

「グソクムシャ!」

膝をついたグソクムシャに、ルガルガンは勝利を確信し笑みを浮かばせる

「トドメのストーンエッジだ!」

グソクムシャに、もうこの攻撃をかわす必要は無い。今日の仕事も無事に終了だ

楽しかったなぁと、もう負けたつもりでナガレは相手へのお世辞を考えていた







「ナガレ!負けんな!」






「ふいうち!!!」

『 ―――!!』

ルガルガンは勝利を確信していた。膝をついて息も絶え絶えな虫ポケモンに、自分の技を躱す術はないのだから

その油断が、グソクムシャに一撃を許す隙となった

数々のバトルに勝利を収めてきたグソクムシャは、そのチャンスを逃さなかった

迫り来る岩を半身で躱し、目にも止まらぬ早さでルガルガンの腹に自身の自慢の爪を叩き込む

攻撃動作を終えたばかりで反応出来なかったルガルガンは、強烈な一撃に吹き飛び、そしてドサリと荷物のように地面に落ちた

「あ、」

やっちゃった。と零れ出たナガレの声が、アローラの青空の下で間抜けに、そしてやたら大きく聞こえた







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