類は
薄暗い館長室で、うなる様な低いポンプの起動音やごぽごぽとパイプを通る水の音
様々な機械音に囲まれて、まるで巨大生物の腹の中のようだ
目の前の背中が異様な雰囲気を醸し出していて、余計にそう思わせる
ナガレはこの水族館で一番偉い人物が座るべき席の、机の上に行儀悪くも腰掛けていた
先程から部屋の真ん中でぬちゃぬちゃガリゴリと不愉快な音を立てている巨大な背中に、岩のようなゴツゴツした肌の頭に、ナガレは
「美味しいですか?それ」
と声をかける
巨大な背中…手足のついた鯨のような姿をした化け物は、悲鳴をあげる魚人を咀嚼し飲み込んでから、低い声で「あ?」とただ一音を発した
「よく食べれますねー」
威嚇するようにこちらを睨んだ巨体ににんまりと笑いながら、私には無理ですよ。最近は魚食べれなくなっちゃってーとわざとらしく続ける
「人間と同じくらいの知能で、喋って、しかも懇願してる『それ』を食べちゃうなんて」
「何が言いたい」
大きな岩山の様な背中はみるみるうちに縮んでいき、平均的な人間の大きさで止まる。カツカツと靴を鳴らして歩み寄った男は、眉間に皺を寄せて
「はっきり言えよ」
とナガレを見下ろした
ナガレは顔の半分が人間と掛け離れている男を見上げ、臆する事無く、むしろこれ以上ないような笑みを浮かべる
「言っちゃっていいんすか?館長」
「………。」
「バケモノ。」
言い終わるか否かのタイミングで、伊佐奈は手を伸ばしていた
床の上に押さえ付けられたナガレは一瞬だけ痛みに顔を歪めたがくつくつと、やがて堪え切れずに大口をあけて笑いをもらし始める
「あっはっはっ!いいんですか?私が死んだら、誰も『人間』を頼れませんよ館長!!あなたがそんな化物になってるなんて、誰も知らないんだから!」
「…用済みになったら殺してやる」
「無理ですよ館長!あなたはその力を捨てることは出来ない。便利ですよね」
強欲で肥大化したような見た目。力もそれに準ずる。
鯨を殺して呪いを受け、鯨の様な姿と能力を手に入れた伊佐名…皮肉にも、彼はその力を使い金も名誉も欲しいままにできている
「よくお似合いですよ?」
首を掴む手を外して立ち上がりながら、ナガレは伊佐名を見上げる。哀れむように、馬鹿にするように…
伊佐名はぎりりと奥歯を噛み締めて、歯の隙間から唸る様にナガレに告げた
「いつか」
必ず食い殺す
☆☆☆
友を呼ぶ
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