君の水晶の見た世界
☆アテンション
目玉をえぐる程度のグロ。…OK?
亡者を追う任務の人手は足りているらしい。珍しく田噛と谷裂がコンビを組んで出かけたんだとか
田噛のことだ、サボれそうにないなとボヤいていることだろう
俺たちの上司である肋角さんに、今日は倉庫の掃除や書類の整理を頼むと任されたのはいいが、一人でやるには量が多い
暇そうなやつを見つけて手伝わせればいいと肋角さんは煙管を燻らせながら言っていたが、今日暇そうな奴なんて…
「なぁ、平腹」
コイツくらいしかいないんだよな…
食堂でウトウトとしていた平腹に声をかけると、半分閉じかけていた目をまん丸に開いていつものように口元にえみを浮かべる
床に倒れていたスコップを拾い上げながら
「なーにーハルト!面白い事ぉ?!」
と何を期待しているのか食いついてくる。こいつには、俺の抱えている資料の山が見えないのだろうか
「仕事手伝ってよ」
満面の笑みのまま、平腹は電源が切れたかのようにぴたりと固まった
「……。」
「……。」
「えー?!」
寝起きの脳みそで理解するのに時間がかかったらしい平腹は、たっぷり間を置いてから口をへの字にして不満そうだ
「やだよぉ!なんて俺なの?」
とガキのようにごねる男に
「あー、頼むよ、力技は平腹の得意技じゃん」
と言うと、さらに機嫌を損ねたらしい
「田噛か斬島にでも頼めよ!」
なんなら木舌でもいいじゃん!と声を荒らげてくる。
活きが良いと言うか、うるさいと言うか、元気と言うか…こいつはいつもよく喚く
「みんな任務行ってるからに決まってんだろ」
「最初に俺に声かけたんじゃないのぉお?!」
それはそれでムカつく…とかなんとか、ブツブツと愚痴りはじめる
どうにも、頼まれてはくれないらしい
まぁ、せっかくの休みをわざわざ潰されたくはないわな。平腹の他といえば、朝早くに任務から帰って休んでいる佐疫がいたはずだ
寝ているところを起こすのは悪いが、整理やら掃除やらが全く進まなくてはどのみち迷惑をかける
資料を持つ手も痺れてきたし、とっとと動くが吉だ
「あー無理ならいいよ、佐疫には悪いが手伝ってもら…平腹?」
平腹は、歩き出そうとした俺の服の裾を掴んで引きとめる。椅子に腰掛けたまま上目遣いでこちらを見つめて、いつものように張り付けたような笑みを浮かべて
「手伝ったらさ、俺の欲しいもんくれる?」
「あ?モノによる、としか言えねぇな」
「大丈夫!お前の今持ってるもんだよ」
「あ?」
だんだんと笑みを深めていく平腹に嫌な予感がしながらも、なんとなく聞いてしまったのが悪かった
平腹は立ち上がって、俺の右目に瞼の上から触れる。無意味に顔を近付けて
「これ、ちょーだい」
交換ね!とすぐ目の前に寄せられた黄金色が瞬いた
これって、まさか、目、だろうか。
「…あ?」
「あじゃないよ。早くしろよハルト!」
痛くしないからさー!と気楽に笑いながら、平腹は瞼の上から力を加えてくる。
こいつ、マジだ。
資料がバサバサと音を立てて床に雪崩ていく
咄嗟に身を翻して逃れようとしたものの、平腹が俺の後頭部を右手で押さえ込みにかかる方が早かった
突然の身の危機に、反射的に相手の動きを捉えようと目を開いてしまい、これ幸いと平腹のゴツゴツとしつつも細い指が眼窩に押し込まれる
右目の視界がぶれて目眩がした
ぐちゃり、と湿った音がして圧がかけられる
「いってぇ!!」
「当たり前じゃん」
俺の神経を引きちぎって、平腹はゲラゲラと笑った。
この程度で死にはしないとはいえ、悪趣味がすぎる
動揺して痛む右目のあった場所を押さえる俺を気にもとめず、血まみれの目玉を左手の親指の腹で愛しそうに撫でて、なんの抵抗もなく右手で自分の目玉を抉り出す
ほら、交換。と差し出された金色の虹彩をもつ目玉をとっさに受け取ってしまい、とりあえず眺める
平腹は俺の目を自分の眼窩に嵌め入れて満足そうだ
「入れないの?早くしろよ!」
俺の手を退けて、眼窩に無理やり目玉を押し込んでから、涙のように溢れ出てきていた血を舐めてくる
「んー、思ったより普通だな」
一通り舐めて満足したのか、平腹は色の変わった右目の前で手を振って見たり周りを眺めたりし始めた
許可なく勝手に交換してくれちゃって、何してんだか
「何が普通なんだよ」
「いやさ、ハルトの目にしたらさぁ、ハルトの見てるもんがわかるかなーって思ったんだけど」
そうでもないのな、と平腹はちょっとだけ不満そうに口を尖らせる
「…バカ言ってないで、さっさと手伝え。」
お前のせいで資料はぐちゃぐちゃの血まみれだっつーの。と言いながら腕を引っ張る
「わかってるよ!」
と平腹はいつもの調子で、俺の目と自分の目を細めて笑った
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