君を愛する時の僕が好き

華はトコトコと後ろをついて来る彼をちらりと見上げる。ハルトは、華の視線に気がつくとふにゃりと口元をゆるめて笑う

彼の黄金色の目が細められ、丸い耳がピクリと動く。華は気恥しくなって、勢いよく前を向くとつかつかと歩き始める。それに続く、ゆっくりと、しかし一定の距離を離れない足音

「つれねぇの。」

そう言いながら少し眉を下げて、困った様に笑いながら耳の後ろをカリカリと掻く

それが、黒豹の雄…ハルトの癖だ。本人にとっては無意識で、華にとっては見慣れた行為が、彼の声を聞いただけで瞼に浮かぶ

髪の一本一本まで詳細に見える気がした

「ねぇ、ハルトさん」

「ん?」

ハルトさんって、いっつもつれねぇのーって言いますけど

「ハルトさんにとって、釣り合ってることってどんな事なんですか?」

華はいつもの様に、園内の掃除を始めながら彼に尋ねる。ハルトは水の入った重たいバケツを持ってやりながら首を傾げた

まだジリジリと肌を焼く夕日に目を細めながら、ハルトは華を見つめる

んーと唸って考えることしばし…意地悪く片方の口を吊り上げて

「華ちゃんってさー、俺が普通の黒豹の時だけ優しいでしょ?」

「そ、そんなことないですよ?!」

「いや、うっすら覚えてるもん。ハッキリじゃないけど」

顔を一気に朱色に染めて、動揺し地面にある動物たちの排泄物を踏んでしまいそうになる彼女の腕を掴んで引き寄せながらハルトはまた眩しいものを見るように目を細める

「だから、その、なに」

俺が好きな分だけ、華ちゃんも俺のことを好きだったらいいなって感じ?

「!!!」

華は、自分より背の高い黒豹を見上げる。彼の黄金色の瞳は、夕日を受けて潤んでいるかのようにも見える

肉食の獣のものであるとは思えない程優しく、慈愛に溢れたその瞳に、華は吸い込まれるように魅入っていた

視線が長時間絡むと、照れてしまったのかいつもの様に耳の後ろを掻いてハルトは空を見る

「俺が華ちゃんをぎゅーっとしたら、華ちゃんからもぎゅーっとして欲しい。」

俺って存外ワガママなんだよ

「俺が許容できる範囲は全て許容してあげたい。そう思うし、逆に俺が許容できる範囲は相手にも許容されたいと思う」

独り言のように、空から視線を外さないまま黒豹は語る

「愛は無償、なんて人間は言うらしいけど、俺はそうは思えない。許して許されて、譲って譲られて、それを互いに感謝しながら愛し合う。そんな感じ?」

ハルトははにかんで、自分を食い入るように見つめていた華の頭に手を乗せる。

「華ちゃんがドジっちゃっても、その数倍笑える生き方をさせてあげたいと思ってる」

まぁ、それってすごい独りよがりでさ

「華ちゃんを笑わせる自分が好きなんだよきっと」

「独りよがりなんかじゃないです…」

華はハルトの胸元に手を添えて顔を埋める

珍しく動揺しているらしい彼の高い体温と早い鼓動を頬に感じながら、彼女は長い睫毛を伏せる

「その、」

すごく、嬉しいです

空気に溶けてしまいそうな程小さな声で告げられた言葉に、ハルトはとろける様に笑って

夕日に煌めく華の髪に軽く口付けたのだった


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