空の果てと追っかけ
ジャローダに腰を支えられ、僕は茫然としていた
あと一歩踏み出せば死んでしまうというのに、どこか他人事で
伸ばしたままの手の先に、Nどころかゼクロムの巨体の影すら見えやしない
ただ雲を浮かべる空の果てに届くようにレシラムが鳴いたが、返事はこない
『ねぇハルト、いつまでそうしてるの?』
僕が転落しないように尾を巻き付けていたジャローダが、何の感情も入れずに問うてくる
『ねぇ。ハルト、聞いてるの?』
促されて、口を開いたら涙が零れてくる
僕の望んだハッピーエンドじゃない。僕は彼の傍に居たかった
Nと過ごしたかった
なのに、こんなの酷いじゃないか
僕は彼の手を取りにきたのに、僕の手が掴んだのは空だけだ
レシラムが何度も何度も呼び掛けるように鳴く
僕の額に大きな雫がぶつかり、見上げるとレシラムが涙を流していた
「レシラム、君もようやく会えたのに、また離れてしまったね。僕のせいで、だよね。ごめんね」
空が滲んでる
きっと、レシラムにも滲んで見えてるんだろう
この情けない僕と、広すぎる空
虚しくなって、ずっとここにいようかと思った
Nの残り香の強いここにいれば、こんな気持ちも忘れてしまえる気がした
『ハルト…何考えてるの?』
ぐいっと腰を引かれ、後頭部に酷い痛みを感じた
ジャローダに床に倒されたのだと気が付いたのは、彼が僕を見下しているのが見えたとき
『何下らない事考えてるの?あれが籠に居たから籠から出したんでしょ?
あれが勝手に逃げたなら追い掛ければ良いんだっ!そうでしょ?ハルト…!』
「ジャローダ」
空は見えない
ジャローダの怒った顔とレシラムの泣き顔と天井を見ている
『僕の知ってる君は、こんなことで一々立ち止まらないよ。凹んで落ち込んで考えて、でも歩き続ける頑張り屋で』
僕の最高のパートナーなんだから
そう言った顔はすでに怒っていなくて、穏やかだった
レシラムも瞬きで涙を落として、何かを期待する目でこちらを見ている
「ジャローダ」
『うん』
「レシラム」
『はい』
「みんなも、もう少しだけ付き合ってくれる?」
もちろん。と返してくれたみんなの声を聞いて、涙を拭く
「トモダチを、一緒に探しに行こう」
立ち上がって、Nの消えた空を見る
もぅ、空は滲んでいない
☆☆☆
みんな悩むし失敗もするし、全部がうまくいくなんてないんだよ
[ 11/554 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]