頂きに立つのは

挑戦者が少ない昼過ぎ

そろそろ昼食でもとろうかと持ち場を離れ下に降りたザクロは、なんとなく、なんとなく今しがた降りた山を見上げる

なんとなく予感はしていたが、見慣れた背中が壁に張り付いていた。まだ悲鳴は聞こえなかったが

ザクロは、これまた何となくカウントダウンを始める。この先の展開は、大体読めている

すぐにこの場を離れることは出来たが、ザクロはもちろんそんなことはせず静かにナガレを見守っていた

じゅー、きゅー、はち、なな、

視線を感じた訳では無いだろうが、彼女はゆっくりと下を向く

タイミングが良いのか悪いのか、ナガレとザクロの視線が奇跡的に絡んだ

ろく、ごー、よん、

距離は離れていたが、ザクロはナガレの瞳が潤み始めているのが確かに見えた気がした

さん、にー、いち、

「ざ、ザクロさぁぁぁぁぁーーん!!!」

見てしまったが最後、結局大声を上げ始めたナガレをザクロは表情1つ変えずに見上げ

「ナガレ、今度は随分と高いところに…」

と呟く

ナガレは何故か、自分の持ち場より上段の壁を登っていた

「ふぁぁぁあぁぁん!助けてぇえぇぇぇぇ!!」

「……。」

そう言えば、毎日叫んでいるがナガレはよく声を枯らさないものだ

今度のど飴でも買ってあげようと、ザクロは岩に手をかけながらぼんやり考えていた



地上に降りて、しがみついていたナガレを床に下ろす

ナガレは目元を擦りながら、何かを言われる前からすみませんと謝罪を繰り返していた

「まったく…ナガレ…?」

「反省しております…」

「今日はどうしたのですか?」

あんなところまで登って…と、呆れたように言いながら頭を撫でる

今回は地上から15m程離れたところまで登っていた

ナガレが少し前に持ち場まで登れるようになったのは素直に嬉しいし喜ばしかったが、そんな直ぐに新たな高みを目指し始めなくても良いのではなかろうか

高度が上がれば当然の如く怪我をするリスクも増えるし、下手をすれば骨折では済まない

私は心配で言っているのですよ?と畳み掛けるザクロに、ナガレは怯んだ様に僅かに身を引く

自分に非があるのを解っている分、叱られた方がよっぽど気が楽だった

ナガレは、バツが悪そうに言い澱んでいたが、結局諦めゆっくりと口を開く

「ザクロさんと所まで登ってみたかったんです…」

ザクロさんの立っているところ、すごく高いから。と照れたように頬を染めて少し笑う

「きっと色んなものが見えるんだろうなって…」

「そんなこと…」

「うぅ…」

瞼を下ろし腰に手を当てたザクロに、今度こそ怒られるのかとナガレは身をちぢ込める

ザクロはそんな様子をみて破顔していた。変に鈍いナガレは気が付かなかったが…

「言ってくれれば、私が連れていってあげるのに」

「へ?」

「私が、連れていってあげます」

ぽかんと口を開くナガレに距離を詰め、いつも助ける時のように抱き締める

地上でこのような事をされた事が無いナガレは一瞬で首から上を赤く染めた

互いの少し早い鼓動を感じながら、沸騰しそうな思考でナガレはザクロを仰ぐ

「ざ、ザクロさん?」

「はい?」

「あ、あの、近いです」

「すみません」

わざとです。と笑ってさらに力を込めるザクロは、潤んでいるナガレの瞳を覗き込む

「はひっ?!」

「ナガレ、私は頑張る方が好きです」

私が好きな人は、いつもひた向きに壁に立ち向かう方です

「ナガレ」

「は、はい」

「私がどんな場所にでも連れていってあげます。ですから、」

私と、付き合ってください

自分の腕の中で必死に見つめてくるナガレに、ザクロは穏やかに告げた

ナガレは毎日の様にザクロに抱えられていたが、自分が冷静な状態で抱き締められるのは初めてだった

ザクロの穏やかな表情とは裏腹に、指先まで体が熱っぽいのも早く脈打つそれにも気が付いていなかった

ナガレは、こぼれ落ちそうな目を瞬いて、ザクロを見上げていた

「私で、いいんですか?」

「はい。ナガレ、あなたがいいんです」

背の低いナガレに合わせて身をかがめ、額同士を付ける

「ザクロさん、私でよければ、お願いします」

「はい、お願いします」

ナガレは、いつもザクロを見上げていた。高みに立つザクロを見て、彼のいるところを見てみたかった

ザクロは、いつもナガレを見上げていた。高みを懸命に目指す、彼女の背中を心配になって見上げていた

互いの頂きで待っていたのは、きっと最初からあなたでした。

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