ずるい男
ハルトとキングは、かなり仲が良かった
どれ位の仲かといえば、昼間っから二人でエロビデオを堂々と真顔で借りてきて一緒に観る位の仲だ
貧乳好きのキング希望で借りて来たビデオとハルト希望で借りてきた痴漢ものビデオが、小さなテーブルの上で無意味に並べられていた
ハルトは胡座をかきながら、退屈そうにパッケージを見比べて欠伸を噛み殺す
この部屋の主であるキングは、エロビデオ上映に備えて飲み物とツマミを準備しにキッチンへ行っている
ハルトは、カチャカチャと皿をいじる音らしき高い雑音を聞きながら貧乳の二文字を見つめていた
「貧乳。痴漢。」
ハルトはつまらなそうに呟いて、再び欠伸を噛み殺した
パッケージの女達は、媚びるみたいに濃い紅を塗りつけた唇で微笑んでいる
「おまたせ」
「あぁ、うん」
ハルトがそっと横にズレると、その隣にキングが座る
馬鹿でかい体格をした男が、小さな花柄の散るトレイで缶ビールと枝豆を運んできた姿はわりと滑稽であったが、ハルトは気にした様子もなく枝豆を手にした
完璧に寛ぎ始めている友人に、キングはいつもと変わらぬ様子で
「じゃあ見ようか」
と声をかける。ちらりとキングを見上げたハルトは、やはり興味がなさそうに
「そーだな。」
と一言だけ返して、手渡されたビールを受け取り、舐める様に口をつけた
画面越しに、女が喘いで身を攀じる
それを道端の野良猫の交尾を見るようにぼんやりと眺めていたハルトに、キングは僅かに躊躇いがちに口を開く
「ハルトはさ、」
「あ?」
「不能なの?」
「…はぁ?」
ハルトは、身長差のあるキングを見上げて眉根を寄せた
怪訝そうな、苛立ちを含んでいる様な、なんとも言えぬ表情で睨みあげてきた友人を見下ろしながら、キングは続ける
「ほら、女の子と付き合ったって話も無いし、こーゆー映像とかも反応薄いし」
勃たないのかなって。と少しだけ首を傾げたキングは、悪意などなくただ不思議そうにしていた
「あー…」
ハルトは、テレビ画面を見つめて露骨にキングから目を逸らす
ハルトは、痴漢もののエロビデオに何の興味もなかった。もちろん、貧乳にも
ハルトは、友人に唯一隠していることがあった。自然体でいても寛いでいても、僅かながらに距離を置くハルトは、友人に嫌われたくなかった
何かを言い淀みはしたものの、結局何も口にせず苦笑いを浮かべる
「勃たねーわけではねぇな。あんま興味ねーからだろ」
「自分で選んだのに」
痴漢もの。と付け足された言葉にハルトは顔を顰める
「お前も淡々と観てるじゃねーか」
「エロゲームのし過ぎで、2次元で勃たないのかも」
「あー…それはそれでどーなん」
呆れたように長い息を吐いたハルトをまっすぐ見つめながら、キングは可笑しそうに
「俺はさ」
ハルトが不能かホモだと疑ってたよ
「そんなわけ無いのにね」
そう笑った。悪意もなく、友人に対して、ただ笑った
「…そーだな。」
テレビ画面では、電車に揺られながら身体をまさぐられ、絶頂に喘ぐ女が映し出されている
それを観ても何も思わないことがこの感情の証明であるのだろうか。そうハルトは脳内で呟いて、キングを見る
いっそ、このまま押し倒しでもしたら、俺の想いは成就するというのか。
☆☆☆
手を出さない♂主と、気付かないキング氏
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