翼とさよなら
気付けば、Nの城の再奥のこの場所に居るのは、ここの主人のNとその手持ち達
そして侵入者の僕とその手持ち達のみとなっていた
すっかり乾いた涙をもう一度だけ拭ってから立ち上がり、Nを見る
彼は僕先程とこの場所で対峙したときと同じように、ゼクロムだけを出していた
ぽん。と背中を押してボールに戻るジャローダと入れ替えに、レシラムが出てくる
ゼクロムとレシラムは翼を広げ、高い天井まで飛び上がった
ようやく和解できた白黒の龍は、広間を飛び首を絡ませて楽しそうに、嬉しそうにしている
彼らの会話は遠くて聞こえないけど、時折笑い声が降ってきた
「ねぇ、ハルト」
声を掛けられ、風に髪を遊ばせるNに近寄る
彼の目は空を舞うレシラムとゼクロムではなく、僕を見ている
「僕は、ハルトに負けてしまった」
僕の手を取り広間の奥へ、奥へと歩いていく
歩を進めるペースが口調と同じで人より早くて、前のめりに半ば駆け足になる僕の足取り
それはまるで、僕を置き去りにしてしまいそうな…
「悔しいけど、嬉しかった。うん」
「え、ぬ?」
彼は歩く。前だけ見てる
「トモダチと話せる人に会えたこともだし、ハルトが僕とともに英雄に選ばれたことも」
「えぬ」
人の話を聞かない早口のままで
「ゼクロムやトモダチ達と一緒に、ハルトと真剣にバトル出来たこと」
「N」
「僕の過去を知っても、気味悪いって言わないでくれたこと…全てが解けない数式で、だのにそれが嬉しかった」
「Nっ!!」
彼が足を止めた
僕の声を聞いて止まったんじゃない
広間の端に立っていた
「ゼクロムっ!」
彼が呼ぶ
レシラムの翼を傷つけて、Nの目の前の壁を破壊する
「目的は果たせなかったけど、新しい世界が見えた気がしたんだ。
それもこれもハルト、君のおかげだね」
やめてよ、N
「トモダチの君のおかげ」
これじゃあまるで
「ありがとう」
一生の別れの挨拶じゃないか!
彼に手を伸ばす。いつの間にか離されていた手を
届く、触れると思った途端、ゼクロムにまたがり空に浮かぶN
まだ離れてないのに、なんて遠い距離
僕の一歩先に床はない
ゼクロムの羽の生み出す風が目先を掠める
羽を傷つけられ、レシラムは飛べない
僕の手持ちではレシラムしか飛べないのに
「さようなら、ハルト」
「待って!」
一歩踏み出す前に、腰に何かが巻き付いて僕を引き止めた
Nは笑って、指先だけ触れて、
「行かないでっ!」
ありがとう、さようなら
そんな別れの言葉を聞きに、僕はここまで来たんじゃないんだよ
☆☆
Nにとってのハッピーエンドはなんだったのだろう?
[ 10/554 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]