ホワイトクリスマス
事務室に誰もいないことを、これ程までに恨んだ事はない
クラウドさんやシンゲンもだが、あののんびり屋のカズマサすら居ないなんておかしい。
「今夜、ひま?」
そう先程から尋ねるクダリボスの顔がやけに近い
距離を取ろうと少し下がると、同じ分を詰められる
「ナガレ、今夜ひまだよね?」
静かな事務室に、クダリボスの声と革靴の音が響く
後ずさりを繰り返すうち、踵が何かに当たった
振り返ると、ただ無機質な壁が佇んでいる
横に走って逃げようかとも考えたが、退路を断つようにクダリボスは壁に手をつける
追い詰められた。
覆い被さる様に見つめられ、仕方なしに
「なんで、そんなこと」
聞くんですか…。と尋ね返す
今日はクリスマスイブだ。彼氏のいない私に、わざわざそんなこと聞かなくても分かりきっているだろうに
そしてそんなこと聞くことが、私を追詰める理由にもならない
見上げた彼はいつもと同じ笑顔ではあった。ただ、いつもより数段何かを含んでいやらしく目を細めるそれは、恐怖を覚えさせる
「ボクは暇かどうかを聞いてるの。」
答えて?
そう首を傾げた彼の目は、決して笑っていなかった。どこまでも真剣で、獲物を仕留めようとする肉食獣のようだった
「……、ひま、ですけど…」
「そう。なら、」
ボクと付き合ってくれるよね?
クダリボスは穏やかに言って、ニッコリと目を細める
クダリボスの目は、断ったら殺すと確かに言っていた。威圧的に見下され、身を縮める
首をこくこくと縦に振ると、満足そうに頷いていた
「断ったらこのまま襲っちゃおうかと思ったけど、」
よかったね。と、クダリボスはほんの少しだけ身を引きながら肩を揺らす
じっとり、絡みつくような視線を頂戴し、引き攣った笑みをなんとか返す
クダリボスはじゃあね。と事務室の扉を開けた
「仕事が終わったら、きちんと待っていてね?」
バタンと扉が閉まる
「………、」
ズルズルと、壁に背中を預けてそのまま床に座り込む。吐き出す息が震えている
「私、大丈夫かな…」
クダリボスの視線が、未だに体に絡み付いているような気がした
☆☆☆
少し不穏なクダリボスと可愛い部下ちゃん
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