理性と首輪

生真面目で理性的。

それがノボリに対する周りからの評価だろう。そしてそれを意識して、ノボリ自身も周りの評価に見合う様に努力している

ノボリは確かにどこまでも生真面目で理性的だったが、それが負担になることもある。どうしようもなく、吐き出したくなることもあった

ノボリの理性が揺らぐときに時折覗くギラギラした目が、ハルトはたまらなく好きだった

疲れた様子で仕事から帰ってきたノボリを視界に捉えるなり、ハルトはおい。と声をかける

「溜まってんだろ?ほら、好きにしろよ」

「っ…!」

ハルトは、羽織っていただけのシャツを脱いでベッドに腰掛ける。

ノボリは目を見開いて、鞄を置こうとしていた動きを停止させた

喉を上下させたノボリはハルトの目の前まで歩みを進め、そして何かに怯えたようにピタリと止まる

ノボリはこの背徳的行為を好まなかった。性行為自体も、同性愛も、理性的な普段の彼なら決して好まない

しかし、ハルトは知っていた。生真面目なノボリはあくまで外面であり、ノボリの一面に過ぎない

ノボリも所詮男だ

ハルトは、まだ葛藤しているのであろう彼にニッコリと笑いかける。幼い子供が友達を遊びに誘うように軽く、無邪気に笑う

「疲れてんだろ?受け止めてやるよ」

ノボリは、もう一度誘われると同時にハルトをほぼ反射で押し倒した

ハルトの背中でベッドのスプリングが軋み、二人分の重さに沈み込む

ノボリは服を脱ぐのも焦れったいのか、いつもの黒い制服を投げ捨ててネクタイを放り、ボタンを弾けさせながらシャツをはだけさせた

日に当たる事のない白い肌に、以前ハルトが戯れに残した赤い跡がかすかに残っていた

ハルトは、しばらくそれを眺めて

「そんなに慌てなくても」

逃げやしねぇよ。とノボリに顔を近づける。すでに少し荒く熱いノボリの呼吸が唇に触れ、ハルトは優越感を覚える

こんなに必死に求めてくれるのかと、ハルトは目を細めた

その様子に、ノボリは恨めしそうに

「ハルトが、」

私を煽るから悪いのでございます。と噛み付く様にキスをする

呼吸すら出来ない程深く舌を絡ませ、何度も角度を変えて、ノボリは強く、強くハルトを求めた

このまま俺を窒息させる気なのかもしれない。そうぼんやり考えながらハルトも出来る限り舌を絡めて応える

殺されたとしても別に良い…と息苦しさを覚えてもノボリを押しのけることをしなかった

ハルトの意識が掠れて視界がゆがみ始める

ノボリは微かに顔を歪ませて、名残惜しそうにそっと離れた

ハルトは舌が抜かれると、反射的に口内に溜まった唾液を飲み込み、息を吸う

「…っ、げほっ」

「申し訳、ございません」

顔を歪めて苦しそうにむせ込むハルトに、本当に申し訳ございませんとノボリは謝罪した

彼は普段理性的な分、それが決壊してしまった時にコントロールが出来なくなってしまう。ハルトをキスで窒息させそうになったのも、今が初めてではなかった

「申し訳ございません、ハルト…」

声を震わせたノボリは、謝罪を繰り返しながらハルトに触れるだけのキスをする

ハルトの目には、本能を抑え込もうとするノボリの方が自分より何倍も苦しそうに映った

ハルトはしばらく唇を噛み締め何かを思案してから、ノボリのベルトのバックルを外し、ズボンと下着を同時に下ろす。

驚いて軽く身を引いたノボリの後頭部を抑え、自らにキスをさせながら

「好きにしろって言っただろ?」

と、ハルトは穏やかに、しかし真剣な眼差しでノボリを見やる

「お前が吐き出さなきゃ、意味無いんだよ」

「…っ!!」

ノボリのなけなしの理性は、欲望を剥き出しにした獣が呆気なく決壊させた

再び噛み付くようにキスをし、ハルトの腰を、その下を弄る

ハルトは、それでいいとでも言いたげに目を細めて覆い被さる男を見上げ、笑った



☆☆☆
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