僕らの恋を伝える時
「ねぇ、待ってよ華ちゃん」
声をかけるなり逃げ出した彼女を追いかけ、腕を掴む
その瞬間、華ちゃんの肩がびくりと跳ねた
まるで牙に怯えた草食動物の様な反応に、思わず手を離す
シャチに対してだって、こんなにありありと怯えた様子なんてなかったのに…これは、明らかに俺に対する拒絶だった
華ちゃんは、逃げずにゆっくりとこちらを向いた
「なんで逃げるの?」
「に、逃げてませんよ」
「そんな分かり易い嘘、誰にだって気付かれるよ」
「………。」
久しぶりに話したからか違う理由からか、とてもぎこちなくバツが悪そうに言葉を出す華ちゃんは、自分のつま先を睨んでいた
………。
ねぇ、と声をかける
彼女の視線は動かない
「もしかしたら気が付いてるかもだけど」
いや、気付いてないかもだけどさ。と区切って耳の後ろを掻く
華ちゃんがほんの少しだけ顔を上げる
「俺、華ちゃんのこと、好き」
ばっと勢い良くこちらを見た瞳が濡れている
華ちゃんの大きな目がさらに開かれ、こぼれ落ちてしまいそうだった
「俺ね、華ちゃんに逃げられるの、すごく悲しい。だって華ちゃんのこと好きだもん」
そう続ける。華ちゃんは少し赤い頬で口をパクパクと動かすだけで、何も言わなかった
絡む目線が恥ずかしく、自分の下にある頭を撫でて遮る
さらさらと指の間を抜ける髪が揺れる
「華ちゃんはいつも元気で前向きで、まっすぐ綺麗な目をしてるよね」
だからね、初めて見た時から好きになったんだよね。と何て事のないように告げる
本当は喉がひきつって、気を抜けば声が裏返ってしまいそうだ
彼女は何も喋らないし答えない。ただされるがままになり、ただ聞いているだけ
逃げ出したいと思っているだろうか。今すぐ俺から離れてしまいたいと
俺の手で、腕で、彼女の表情は隠れている。否、隠している
「華ちゃんは俺が怖くなった?」
「ち、ちがっ!」
尋ね終わるかどうかというくらいで俺の手首を掴んで、勢い良く叫ぶ様に否定をしてくれる
しかしそれはすぐに力をなくし 、 …違うんです。と萎れた様に俯いてしまった
「…、それが嘘かホントかはわかんないけどさ」
突然逃げられて、話す事も出来ないなんて俺は耐えられないよ
いつもウワバミが俺にするように、宥めるように華ちゃんに語りかけてみる
「今すぐじゃなくていいから、」
返事を、頂戴?
「俺は華ちゃんが好き。それだけ」
すっかり、俯いてしまっている華ちゃんの手から俺の腕をそっと抜き、元来た道を戻る
言ってしまったもんは戻れない
俺はただ、答えを待つだけだ
☆☆☆
「お、おおお大上!ウワバミ!」
「おうハルトどうだった!」
「ふ、振られたらどうしよう…」
「ハルト、あんた格好つかないわねぇ」
「うわぁ…もぅ俺ダメかも…」
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