ガラス越しに愛でて
要約すれば、俺たちの隙を突いたシャチがイガラシを誘拐し
それを追い園長率いる数匹と華ちゃんをタカヒロが運ぶことにより水族館まで乗り込み
シャチや水族館勢をボコボコにして
イガラシをみんなで救い出して騒ぎは幕を閉じた
しかし、解決してないことが一つある
「ダメだ…大上、ウワバミ、今日も俺避けられちゃったんだけど…」
大上の檻に押し掛け、何故か一緒について来たウワバミも交えてそう報告する
大上もウワバミも顔を合わせて困った様に眉根を寄せて長い息を吐き出す
「やっぱり気のせいじゃ無いよな…」
大上は慰める様に俺の肩をぽんぽんと数回叩いた
いつもより自然と丸くなる背中を意識して伸ばす。一人でいるとどっぷりと項垂れてしまいそうだ
シャチが来たあの日から、華ちゃんの俺に対する様子がおかしい
どうおかしいか?それは
「明らかにあんたを見ると逃げるものね」
ウワバミが憐れんだ目で俺を見た
思い当たる事がないのだが二人曰く、どうやらシャチと俺がやりあった様子に怯えてしまったようなのだ
俺もあの時は冷静さを欠いていたし、野生で行なってきたかのような命を狩る行為を目の前で見せられる華ちゃんの気持ちまで考えていなかった
ウワバミ曰く、シシドの暴れっぷりが子猫の戯れに見えるくらい荒々しい戦いだったらしいし
こちらからすれば、そもそも群れで狩りをするライオンと比べないで欲しいところなのだが
華ちゃんを傷つけようとしたシャチを前に、つい頭に血が登ってしまった俺が全部悪いのか…
しかし、雌を守るのは雄の務めじゃないか
助けに入ったことは後悔していない。が、寂しい。とにかく寂しい
もうダメかもしれない。俺はダメだ
床に這いつくばって顔を伏せる
ウワバミがぎょっとしたのが気配でわかった
「あーもう無理。華ちゃんが足りない、死ぬ」
「お前も雄なんだな」
「あぁ?」
どこか可笑しそうに言った大上を睨みあげると、大袈裟に怯えたふりをしていた
すっかり呆れ顔のウワバミが俺の首根っこを掴み、姿勢を正させる
「ほらハルトしっかりしなさいよ!あんたがヘコタレてたらいつまでも逃げられるままよ?」
そう叱咤してくる彼女の口からチロチロと舌が覗いていた
「そんなの耐えられない」
「なら尚更しっかりしなさい」
腰に手を当ててそう厳しく言ってくるが、表情は割と穏やかだった
「華ちゃんだって馬鹿じゃないんだ、ハルトがちゃんとフォローしてやればすぐに元に戻るよ」
大上も呆れ半分で笑いながらそう言う
しかし、
「戻らなかったらどうすんだ」
「…お前存外めんどくせぇな」
「ハルトがそんなのだから逃げられるのよ。雄なんだからぐいっと掴まえて話しをしなさい、ほら!」
言うが早いか、遠くに見える小柄な背中に向けて檻から押し出される
振り返ると、大上が呑気に手を振っていた
「良い結果報告を待ってるぜ」
「大上てめぇ後で覚えてろ」
大上とウワバミは俺をもう一度檻に入れてくれる気はないらしく、ニマニマと表情を弛めながら大きく手を振っていた
☆☆☆
「うまく行くと良いわね」
「まぁ、何とかなるだろ?ハルトだってやる時はやる奴だし」
「やるまでが面倒なんだけどね、ハルトは」
「まぁ確かに…でもやっぱり」
「何よ」
「あいつも雄なんだな」
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