勝ち逃げと臆病

この大男のことは、最初から気に入らなかった

すべてを見下したみたいに、それでいて表だけは綺麗に丁寧な口調で

敬う態度で、彼を慕いもせず

ただ道具として見ていたこと

だから、死んでも勝ちたいって思ったんだ


カチリとゲーチスがサザンドラをボールにおさめる

『勝ってきたよ、お馬鹿さん』

「ありがと、ありがとねっ!ジャローダ」

ただでさえ引きずっている体を不器用に滑らせて戻ってきたジャローダに、目頭が熱くなった

「ありがと、本当にありがと」

『わかったから、ハルト。わかったから泣かないの』

目の前まで来たパートナーを抱き締める

ジャローダは僕の無茶な指示に従ってくれた

パートナー一匹で、ゲーチスの手持ちを全員倒してきてくれた

「ゲーチス。悪いけど、勝ったのは僕だ。だから」

訂正して。Nを、僕のトモダチを化け物って言ったこと

勝者の僕らしか発言を許されない場所で、響いた舌打ち

ゲーチスは何も言わず、恨めしそうにこちらを睨むだけたった

Nも唇を一文字に結び、何も言わない

沈黙を破ったのは、ドタバタと駆け込んできた足音だった

「ハルト!」

「ハルト君!無事か?!」

後ろから聞こえた幼なじみとチャンピオンの声に、気が抜けたのか足の力が急に抜けた

あらがう間もなく、重力に負けて床にへたりこんでしまう

『ハルト!ちょっと、大丈夫なの?』

「あはは、実はだいぶ前から膝が震えてた」

馬鹿だねハルトはと笑うジャローダに傷薬を使ってやりながら、苦笑いを返す

ずっと強がってた

けど、怖かった

見知らぬ場所で戦い、敵に囲まれ、伝説同士のポケモンの戦いを指示し、組織のリーダーと真っ向から勝負して

「でも、これで終わった。全部全部。
ね、N。君はもぅプラズマの王子でもハルモニアの跡取りでも、もちろん化け物なんかでもない。
僕が勝ったの…だから君は」

自由だよ、ただの、僕のトモダチの、N

ゲーチスが現れてからずっと何かを堪えるように無言だった彼が、はじめて

泣くみたいな笑うみたいな顔で、

「ハルト、ありがとう」

と言葉を発する

駆け寄ってくるチャンピオンの声も幼なじみの声も、その時ばかりは全く耳に届かなかった

☆☆☆
主人公だって子供だし、本当はとても怖かったり不安だったりするんじゃないのかな?なんて

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