秘密話に甘い蜜

「あんた、そんなんじゃ華ちゃんに嫌われるわよ」

俺の檻に来るなり、ウワバミは俺の鼻先に指を突きつけてそう言った

簡易な檻に置かれた換気扇がカラカラと間抜けな音を立てる

「それは困るなぁ」

ウワバミの手を下ろさせ、そう答えると肩を竦められた

俺が差し出した椅子に腰を下ろしながら

「ハルト、顔が笑ってるわよ…」

と指摘してくる。そう?

しばらく頬を自分で弄ってみたが、表情がどうなっているのかは正直わからなかった

「嫌いだとしても、今より想われてるってだけで少し嬉しい気がするんだよね」

耳の裏を掻きながらそう本心を少しだけだけ口にしてみる

呆れた。と心底言いたそうな視線を頂戴した。頭の蛇まで器用に半眼で見てくる

そんなにかね。

「華ちゃん、園長の次にあんたの愚痴言ってるわよ?いい加減にしないと本当に見捨てられちゃうわね」

はぁぁーと態とらしいため息をつかれる。軽く手を扇ぐように振ると、その手を叩き落とされた。痛い

ウワバミは手が早い。加西はなんでこんなんが好きなんだ。

華ちゃん可愛いじゃん。デッキブラシ片手に頑張ってる華ちゃん可愛いじゃん!

つーか華ちゃんの話題に上がるのが園長の次にというのも気に入らないが、なんでウワバミとは話して俺には話してくれないのか

そりゃあ、まぁ、同性の方が話しやすい事も多いんだろうけどさ

手をさすりながら、恨みを込めてウワバミを見る

「そーいや、女の子って肉食でグイグイ来る雄のが良いって、ウワバミが言ったんじゃん」

俺肉食だよ?グイグイ行ってるよ?と言ってみたら額にチョップされた

やっぱり手が早い雌は好かん

「グイグイのやり方が違うわよ!あんたはただの駄々っ子じゃない。」

そっと掃除の手伝いでもしてあげれば?

項に垂れた髪を整えながら、ウワバミは幼いガキを相手するような言い方をする

「えー、俺より掃除優先なの?」

「なんてゆーか、あんた思いの外面倒臭いわね」

そう?と聞き返すと、そうよ。と改めて言われてしまった

頭の蛇が、駄目だこいつと言わんばかりに首を振る

なんだよ、つれねぇな

「華ちゃんのタイプでも聞いてきてよ。良い雄の条件とかさ」

俺、狩りなら得意だよ。と一応アピールしてみたが溜息を吐きだされる

はい、却下と。

………。

「ウワバミは園長が好きなんだろ?」

なんで好きなのよ。と聞いてみると、ウワバミの目が確かにキラリと輝いたのを見た

やばい。

「だって素敵じゃない?無邪気で俺について来いって感じで!!」

「あ、あぁ、そうだな」

「華ちゃんは子供っぽいって言うけど、そこがまた可愛いというか遊んでばかりなのもわんぱくで」

園長の彼女的素敵な部分を聞き流しながら、適当に相槌を打つ

俺的には、加西の方がいいと思うんだが。寡黙で強くて、何より一途じゃないか

当の本人…本蛇?…のウワバミは気が付いていないが、加西は昔からウワバミを好いているし。あいつは言葉少なだが確かな熱い想いを持っているっ

「とりあえずさ、うちの園は雌少ないし、華ちゃんから聞き出してきてよ。頼むよウワバミ」

彼女の話を遮ったが、ウワバミは意外にも気を害した様子は無く笑顔で任されたわと言った

こーゆー彼女の姉御的と言うか、案外さっぱりしているところはわりと好いている。

園長に対する盲目っぷりには、まぁ、あえて何も言わないが

互いに好きな人についてを語る仲なので、ある程度行き過ぎたテンションになってもそこは黙認すべきなんだ

「そう言えば」

「ん?」

「ハルト、あんたはなんで華ちゃんが好きなのよ」

首を傾げながら尋ねられ、俺も同じだけ頭を傾ける

「あれ、言ってなかった?」

「言ってないわよ」

さっさと教えなさいと急かされ、耳の後ろを掻く

「華ちゃんってさ、ドジっても頑張るでしょ?諦めないで、ちゃんと前を向いてるじゃん」

小柄で可愛いなーってのもあるけど、目がね

「目が凄っく綺麗で、好き」

耳の後ろを掻いていると、ウワバミが餌を食う直前のように口をぽかんと開けてきた

なに、その顔

「あんた…」

「ん?」

「いえ、なんでも無いわ」

ウワバミは何かを言いよどむと、黙りこくってしまった。

マジでなんなの



☆☆☆
「なんでそこまでハッキリしてるのに、キチンと言わないのよ。この馬鹿黒猫」

「なんか言った?」

「いえ、何も…。」

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