素直さに本能を隠して

みんなが遊び回るなか、1人律儀にデッキブラシを手にしている背中を見つけ駆け寄る

小柄な背中は、半ばムキに手を動かし続けていた

「華ちゃーん」

と後ろから飛び付くと、華ちゃんは一瞬だけ驚いた様に息を詰めたが、俺だと気がついたかすぐに呆れたように長い息を吐いた

掃除の手を止めないまま

「また来たんですか?」

だなんて冷たく言い放たれてしまった

「つれないなー、華ちゃんは」

いつも構ってくれないし、たまには構ってよ。と声をかけると嫌そうに顔を歪める

せっかくの可愛い顔なのに、そんな表情しなくても…

俺の手を解いて、デッキブラシを地面に打ちトントンと音を鳴らす彼女はご立腹らしい

「…私は掃除がしたいんです!それなのに皆遊んでばかり!いつまでもこんな汚いままじゃお客さんが………っ?!」

「っと。」

俺に詰め寄ろうとして盛大に足を滑らした彼女の腕を咄嗟に掴む

華ちゃんは口と目を大きくあけて、ぽかんと俺を見上げていた

片腕だけで軽く支えられてしまう程軽い華ちゃんに、若干の不安を覚える。力加減を間違えると、簡単に折れてしまいそうだ…

「危ないでしょ、転けるよ?」

パッと手を離す

華ちゃんは少しだけよろけたが、転びはしなかった

「あ、ありがとうございます」

「んー、どういたしまして」

ちょっと不満そうにむくれながらもお礼を言ってくれる華ちゃんの頭を撫でる

何だかんだで素直に撫でられてくれるのは可愛い

そのまま華ちゃんの肩に顎を乗せると、僅かに身じろぎされた

「もう、ハルトさんったら……暇なら、大上さんとかウワバミさんとお話してればいいじゃないですか」

「華ちゃんがいいのー」

「私は忙しいんです!」

「つれねぇのー」

ぷんすかと頬をふくらませ怒っている彼女のデッキブラシを奪い、高く掲げて持ち上げてみる。掃除道具がなけりゃ掃除は出来ないだろう

俺より小さな彼女が手を伸ばそうが飛び跳ねようが届かない

「あ、返してくださいっ」

「華ちゃんも息抜きしたら?眉間に皺出来てるよ」

「もー、一体誰のせいだとっ!ハルトさん、返してくださいったら」

俺の腕につかまりぶら下がる華ちゃんを見下ろし

「そーだね、ブラッシングしてくれたら良いかもね」

と言ってみる。我ながら、少しずるいとは思ったが。

彼女は気が付いていないが、デッキブラシを返そうが返すまいが、こちらは構ってもらえているのだ

あとはちょびっとでも笑ってくれたら文句なしだ。今のところは。

もう少し意地悪してようかなと思案していると、華ちゃんが動きを止めて黙り込んでしまった

諦めてしまったのだろうか。見下ろすと、華ちゃんは困った様に眉間を少し寄せながら笑っていた

「…掃除が終わったら、してあげます」

「ほんと?華ちゃん、約束約束」

「はいはい、小指出してください」

華ちゃんは歯を見せて笑いながら、末端の指を一本だけ立てる

「こゆび?」

ただ差し出されたそれを見ていると、俺の手を取り同じように末端の指を一本だけ立たせた

「ほら、こーして……指切りげんまん」

華ちゃんは指同士を絡ませると、それを上下に揺すりながらゆっくりと歌い始めた

そして、何故か唐突に

「指切った!」

と、勢い良く指同士を離した。今のは何だったんだろう

人間の習性か何かなんだろうか。華ちゃんは笑顔だったので、悪意のあるものではないんだろうと結論づけた

先程まで絡んでいた指をぼんやりと見つめる。ほんのりと熱を持つそれが少し寂しい

「何見てるんですか?ハルトさん」

「いや、……」

「じゃあ、掃除してきますね!出来るだけ早めに終わらせますから、待っていてください!」

俺が何かを言う前に、張り切って袖をまくりデッキブラシを手に走っていく背中を見送る

転んでしまわないかと冷や冷やしたが、無事なまま視界から消えてしまう

距離が離れて寂しい反面、小指がまだ繋がっている気がして、少しだけ笑ってしまう

「約束、指切り」

小指に口付け、自分の檻へ向かう

華ちゃんが来たら、沢山待ったんだからって言って少し不機嫌なふりして彼女を迎えるんだ

待つのは得意じゃないが、それが楽しいだなんて変なの



☆☆☆
「掃除、終わらなかった…」

「華ちゃーん。俺いい子で待ってたのに。」

「ハルトさん…ごめんなさい」

「あらあら、また転けたの…別に良いよ。頭撫でてくれたら許してあげる」

「へ?それだけでいいんですか?」

「ん、」

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