方言女子はモテるってよ
駅の構内で泣いていたキバゴを抱えてトレーナーを探すことしばし、オロオロと周りを見渡していた少女がこの子のトレーナーだったらしい
再会し涙を流す二人に、腰につけたポーチから取り出したものを手のひらに乗せる
「よかったね!今度は迷子になっちゃダメだよ?はい、飴ちゃんあげるから泣き止んで?」
透明のフィルムを剥ぎ、二人の小さな手のひらに飴玉を渡すとそれを頬張って笑顔になる少女とキバゴ
やはり子供もポケモンも笑顔でなければ
バイバイと手を振り地上へと二人を送り出し、自分の持ち場へ戻る
お客様の迷惑にならないように、少し小走りに急ぐ。あまり長い時間持ち場から離れていると、理由があったとはいえ怒られてしまう
と、突如背後からナガレ!と厳しい声が呼び止めてきた
「ナガレ、職務中にお菓子を持ち歩くのは好ましくありませんよ」
「?!ご、ごめんなさ…スミマセン、ノボリボス!」
慌てて振り返り頭を下げると、何故か注意していた筈の彼がくすくすと笑いだした
少しだけ顔を上げると、白いコートを身に纏い笑顔を浮かべる男が見下ろしている
「へ?」
「うふー、ノボリの真似。似てた?」
キャラキャラと子供のように腹を抱えているクダリボスを睨み、頬を膨らます
ノボリボスとクダリボスは双子だが、性格は全然違う。何事にもきっちりしているノボリボスと違い、彼は子供のような無邪気さが目立つ
双子の片割れを真似てイタズラしに来るのは、大抵はこの白いのの方だ
「ノボリだったとしても、怒らない。キミが食べるために持ってるわけじゃないもん」
一通り笑った彼は、そう言いながら私の腰を指さす
ポーチいっぱいの飴ちゃんは、迷子を宥めるためかポケモン達の為に持っている。私が舐めるとしても休憩中であり勤務中では無いのは確かだ
「ならわざわざビックリさせないでくださいよ」
少し先程から落ち着かない鼓動を押さえて言うと肩を竦められた。
こちらは本気で口から心臓が出そうな程驚いたのだ
驚きが落ち着くにつれて苛立ちが沸いてきているこちらとは違い、クダリボスは面白いものを見つけた様に目元を細める
「飴ちゃん」
「?」
「飴ちゃんって変!」
普通、飴にちゃんは付けない!とクダリボスは笑みを深めながら言った
「えー、よく言われますけど…」
「飴ちゃん飴ちゃん、飴ちゃんってやっぱり変!」
「もー」
そんなに言うなら飴ちゃんあげませんよ?と、しつこく繰り返す彼に半分冗談、半分イライラで言う
クダリボスは普段からゆるゆるな口元をさらに緩めて
「飴ちゃん、可愛い。ボク好き」
と周囲にお花を散らせながらとろける様に言った
そこにからかいの感情は一つもない。純粋に無邪気に笑っていた
思わず見惚れてしまったのを誤魔化す様に、ポーチから飴ちゃんを取り出す
クダリボスは不思議そうに首をかしげていた
「ん?くれるの?」
「飴ちゃん。好きならあげますよ」
「ボク、別に飴好きじゃない」
嫌いでもないけど。と差し出された手に、苺ミルク味の飴ちゃんが乗る
クダリボスは掌でそれを転がして遊びながら微笑んだ
「キミがね?」
「?」
「キミが」
飴ちゃんって言ってるの、すごく可愛いなって思って
「っ!!!!」
彼にとっては何気なく感じたことを言っただけかもしれないが、こちらは脳内が沸騰しそうなほどの大ダメージを受けていた
クダリボスはニッコリ笑い、フィルムを剥いだ飴ちゃんを食べ始めていた
☆☆☆
飴ちゃんはコガネ弁
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