透明な目をしてる人

ライモンに漸く到着し、背伸びをする

道中で砂は落とし切ったらしく、腕を振っても何も出てこなかった

まぁなんか出てきても困るわけだが。ちなみにさっき、ハートのウロコが袖から出てきたのは秘密。

遺跡を出たときはまだ元気だった太陽もすっかり沈み、建物の隙間から見える空に月が浮かんでいた

結構な距離を歩いた為か、足がジンジンと膨張するような痛みを発している

バトルにも飽きたのかボールで寝ていたレントラーと砂から避難ししていたクリームが、ボールの中から呆れた視線を寄越してきた

お前らと違ってこちとらインドア派だったんだ。むしろ砂漠を含めこんな長距離よく歩けたなと褒めてもらいたいもんだ

これくらいの距離なら飛行タイプかエスパータイプのポケモンに世話になることが多かったしな…焼林檎さんが恋しいぞ俺は

と言っても、あいつが進化したのはわりかし最近だし、飛んだのは一度きりだが…。ぶら下がりフラグは帰れ

技のポイント切れが不満で俺の腕にしがみついているマスカットを撫でて宥め、ポケモンセンターを目指す

遺跡内で技が使えなくなるまでハッスルしたパートナーが悪いので、薬での回復はしなかったのだ

薬は持ち歩くと嵩張るからあまり持っていないし、何より1回で使い切りの癖に高くつくから困る。無闇に財布を軽くしたくは無い

ざっと周りを確認し、見つけた赤い屋根に向かう

『---!』

「ほら、ポケセン入ったら回復出来るから、そろそろ落ち着け」

マスカットはサイコキネシスを撃ちたくてたまらなくなったのか、早く早くと急かして背中を押してくる

「はいはい、わかったから押すな…ん?待て、ズボンの裾から炎の石が出て来たんだが…?!」



ポケモンセンターに入るなり、見覚えのある緑色の大きな帽子が揺れていた

帽子の主は、手持ちのポケモンを出してロビーの一角を占拠している。何やら眉間に皺を寄せ、話し合っている様だ

マスカットに急かされて近付くと、帽子の主がこちらに気が付いたらしく顔を上げる

「あぁ、やっぱりベルちゃんか。何してんの?」

「あ、カナタさん!」

ベルは手持ち達に向けていた難しそうな顔を止め、途端に笑顔になる

だが、無理しているのか眉根が少し寄っている。若いうちから癖にすると取れなくなるぞ?

ベルの手持ち達も何やら思案顔をしているし、何かあったのは確かだろう

「どーしたの?なんか元気無さそうだな」

俺でよければ聞くけど?と言ってみると笑顔が崩れて困り顔になった。

マスカットがベルのチャオブーに体当たりをかましに行ったが無視だ。お前、技も使えないのに喧嘩を売るな

ベルは少しの間だけ迷っていたが、ゆっくりとポツリ話し出す

「……父さんから、連絡があったの 」

もう充分遠出したし、旅をやめて帰ってこいって

ベルは膝の上に乗せていたムンナをただ撫でる。ほぼ無意識だろうそれに、ムンナは気持ちよさそうに欠伸を零していた

「私は幼馴染みの2人と一緒にだけど、自分で決めて旅に出たんだもん…終わらせるのだって自分で決めたい」

確かに危険な事もあったけど、それ以上に楽しいこともイッパイあったんだもん

ベルが帽子を掴んで下に引き降ろし、顔を隠す。一瞬見えた瞳が潤んでいて、今にも泣いてしまいそうだった

変わりゆく環境に、周りの人に、様々な意見に、彼女は流されてしまいそうなんだろう。

例えば自らを引き止める親、いつでも先を行く幼馴染み、バトルをしてきた様々なトレーナー達、出会ったポケモン達、プラズマ団やポケモンをこき使う悪人共、傷付けられた人達

様々出逢いに触れる度、全てが何かしらを訴え彼女を変えていく

でも、変わりゆく環境と、周りの人と、様々な意見と、彼女は戦おうとしていた

俺はほんの少ししか彼女を知らないが、直向きで一生懸命なベルを見ているのは嫌いじゃない

俺と違いすぎて、眩しくなる

「好きにしたらいいじゃないか。ベルちゃんはいいトレーナーだって見ててわかるぞ?」

すっかり俯いてしまった彼女の頭を帽子の上から軽く叩く

「へ?」

「手持ちの毛並みも発育状態もいいし、懐いててきちんと信頼し合えている。文句のつけ様も無い」

褒められたからか、彼女の手持ち達が誇らしげに胸を張る

マスカットと転げ回っていたチャオブーも、ベルに駆け寄って胸を張ってアピールしていた

そんな様子に、戸惑ったように顔を上げるベル

「ベルちゃんはさ、チェレンとかツタージャ少年と自分を比べてるけどさ、そんな必要ないでしょ」

ベルちゃんが旅に出る前がどんなかは知らないけど、手持ち達を見ればわかるよ

「ベルちゃんはゆっくりだけど着実に正しい道を進める。しっかりと前を向いて行ける。だから焦らずに自分のペースでやりたい事をやればいい」

顔をしっかりと上げたベルと視線が絡み合う

少し湿った瞳が、数回瞬いた

「ま、あんま気にすんなよ。説教臭くなって悪かった」

少し気まずくなって後頭部を掻くと、何故かはっとしたベルが急速に頭を下げた

「いえ、あの、ありがとうございます!なんか、元気出て来ました!」

ベルはムンナを抱いて、輝くように笑った

多少なりとも、彼女の迷いが払えたのだろうか

俺と違い、世話を焼かなくても立ち直れたんだろうけど、つい世話を焼きたくなってしまう

ホントに俺と違いすぎて眩しくなる

思わず目を細めて、彼女の透明で大きな瞳を見つめ返す

「そう、よかった。」



☆☆☆
カナタさんは、全部見透かすみたいな透明な目をしてる
カナタさんは、おどけた様に怖いくらい優しい声で話す
カナタさんは、少し困った様に笑う

ベルちゃんは、何でも見えそうな大きな目で真っ直ぐに見てくる
ベルちゃんは、何かを堪えてなんでも楽しそうに話す
ベルちゃんは、前歯を見せて無邪気にとても幸せそうに笑う

カナタさんは、
ベルちゃんは、
なんとなく、ほんの少しコワい

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