祭壇と伝説

様々な仕掛けや隠し通路はレントラーに教えてもらうことで攻略し、野生のポケモンをマスカットに蹴散らして貰いながら降りることしばし

もういくつの階段を見つけ降りたかも覚えていないが、かなり下層に来ただろう

その証拠に、しばらくは壁越しに聞こえていた声も今は一つもなく、誰もここまで来れてはいない

暗闇の中の、狭い石壁の通路を進んでくるのはかなり骨が折れたし、不安定な足場に突如驚かしに来るポケモンにと大分憔悴したが、そろそろ目的地に着くのでは無かろうか

むしろ、そうでないと困る

マスカットは暗闇など関係なく楽しそうにデスマスを吹き飛ばしているらしかったが

『らしい』と言うのは、何もかも暗闇で失われた視界の代わりに澄ました耳が、デスマスの悲鳴が遠のく中パートナーの笑い声がするのを拾ったからだ…

ものすごく高速に右から左へと駆け抜けた悲鳴や叫び声は、サイコキネシスによって勢いをそのままに壁に叩き付けられ、そして気絶したのか沈黙する

シャドーボールのパワーポイントが切れたからだろうか…出来たら精神衛生上、良くは無いのでやめて欲しいのだが

ゴッ!と鈍い音が四方からするのは痛々しくていただけない…

ため息を吐き、少し休もうかと声をかけようとしたとき、掴んでいたレントラーの尾が消えた

前を見ると、暗闇に浮かぶ黄金が二つ瞬く。レントラーの目が煌々と光っていた

『---!』

「ん?どーした」

走り出したレントラーを、近くを浮遊していたマスカットの手を掴み追い掛ける

砂に混じった石の床に躓きながらレントラーに続くと、今まで感じていた圧迫感が消えた

「なんだ、これ」

どういう原理なのか、真っ暗闇から薄暗い位には明るくなっており、光の無かったところを見慣れた目には充分その景色が見えた

今までの大型のポケモンが通れるかどうかほどの通路から繋がっていたのは、縦横共に数十メートルはある大広間…そしてその先にさらに登り階段が続く

何本か天井を支えるための柱が崩れ落ち、階段も欠けていたりするが間違いない

「祭壇はこの先か…ありがとな、レントラー。マスカットも」

『---。』

『---!』

誇らしげな2人を撫でて、階段を見上げる

昔、伝説のポケモンを崇め奉ったと言われる祭壇は、砂にまみれてもなおその役割を果たしていたのであろう

この空間を照らす光源…石で作成された祭壇の上にぼんやりと浮かぶ謎の黒い球体に近付く

観察してみると、継ぎ接ぎ等無く磨き上げられたかのように滑らかで凹凸のないツルリとした表面をしていた

光を発しているのに熱は感じず、手のひら程の大きさにしてはずっしりとした重みがあり存在感がある

恐らく、古くからある文献通りであるならこれがこの国を導き、そして一度は滅ぼした伝説のポケモンの仮の姿

「ゼクロム、かもしれないな」

『---?』

覗き込んできたマスカットに渡してやると、不思議そうに首を傾げていた

しばらく球体を持ち上げ観察していたが、飽きたのかぽいっと俺へと投げてくる。誰に似たのか、割と乱暴だな

受け取ったそれを、ハンカチやタオルで傷つけないように包み、光源が消えてしまったため、ポケットライトを点ける

砂をかけられそちらを見ると、レントラーが顔をしかめてこちらを睨んでいた。眩しかったらしい

「悪かったよ、レントラー…。クリーム、頼む」

『---!』

ボールを開くと、クリームはすぐに左腕を持ち上げ、預けていた資料入りの鞄を渡してくれた

その鞄の底にそっと球体を置き、再びクリームに預かって貰う

これがゼクロムであるという確証はない。が、もしそうであったならプラズマ団に渡さない方がいいだろう

もしゼクロムがこちらの駒となれば、ポケモンの解放を力ずくで行う可能性があるし、そんな事をすれば戦争にまでなりかねない。

俺としては、無闇にポケモンを傷つけられたくない。ゼクロムを見てみたくない訳ではないが

こんなものがありましたよと律儀に報告する気も、素直に球体を献上する気もない

クリームに預けておけば安心だろう

問題は…

「また暗闇の中、帰らなきゃいけないんだよな…」

マスカットが準備運動を始めているのだが、サイコキネシスのパワーポイントが早く切れることを祈ってる俺は悪くない



☆☆☆
「あーあ、これがゼクロムだったとしても、俺は英雄ではないってことだよな。わかってはいたが」

『---?』

「ん?あぁ、この国に伝わる伝説のポケモン…レシラムとゼクロムは、今は石になってるらしいんだがなぁ、英雄となり得る存在と出会うと元の姿に戻って力を貸すんだと」

『---!』

「お前変身とか好きだよな、マスカット。ま、この薄ぼんやりと光ってた石がゼクロムだとしてだ、もう片割れのレシラムはどこに行っちまったんだろうな?」

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