高圧的態度、高血圧注意

私のお部屋が、仮設住宅から水族館内に戻ってきたことを喜ぶ暇はありません

少し古い黒色の電話を手に、相手側に見えないのを知りながら頭を下げます

「えっと、つまりは今月を持ちまして違う就職先を探して頂く、と言うことに」

ガチャン!と勢い良く叩きつけられ、耳が痛くなりました。鼓膜は無事でしょうか…

この反応は通算三回目、まだまだ先は長いです

あぁぁ、胃が痛いどころではありません…胃がよじれて引きちぎれそうです

電話を片手に手元のノートを捲ります

まだ半分もいらっしゃる…

鯨の指示で今月中に皆さんが解雇になることはわかっていました

しかし、それを告げるのが私であるっていうのが問題なのです

もちろん、前回抗議した結果、多少のお金や保証が出るようにはなりました。裁判所に訴えられる心配もないと鯨は言っていましたが…

でもだからといって、納得してもらえるかは別でしょう

さぁ新しく改築されて大きくなった水族館での仕事再開だー!がんばるぞーと気合いイッパイ張り切りだした瞬間に、電話一本でクビ宣告…

館長は顔も見せないで代理の小娘に出鼻を挫かれ、納得して下さる方の方が少数でしょう

流石に直接、面と向かって辞職しろと言う勇気はわたしにはありませんし…イサナさんが受話器を持てれば良かったんですけどね!ぷちっ

どこぞの鯨と違って、私の面の皮は分厚くないのです。他人事だと思って急かしてくるあれは面の皮ベーコンにされればいいと思います

胃が悲鳴を上げ、捩れるどころかフィギュアスケートを始めている気がします…四回転ジャンプじゃ足りないくらい回ってませんかね…

連絡先と名前の並んだノートには結構な人数のものがあります

反応は様々ですが、すんなりと納得される方は今のところ居ません。当たり前ですが。

そして残りの皆様の中にも居ないでしょう…

手元に置いておいた胃薬を水で流し込み、ふるえる指先でダイヤルを押します

今日ほど頭を下げて謝罪する日は二度と来ないでしょう…いえ、来て貰っては困ります!

がんばれ私!これが終われば沢山のお給料が出ますよ

なんとか自分を鼓舞し奮い立たせながら、無機質なベルの音を聞きます

コール6回、電話を取った相手に辞職を告げるとガチャンと受話器を振り下ろされました

通算4回目…死にそうです



「い、イサナさん…どーにか終わりました…」

「そうか。」

「そうかって…」

連絡をすべて終えてなんとか皆様に辞めていただいたというのに、鯨は実に悠々と優雅に泳いでいました

どこかにランチャー的な物は落ちてませんかね?

昼間から初めて、すっかり日が沈んでいます。つまりはそれだけ長時間こちとら謝り続けていたのです

なのに悠々と優雅に泳ぐ鯨。

ベーコンが頭の中を横切っていきます。

今日は鯨の肉を晩御飯にしましょうそうしましょう。せめてもの仕返しです。

脳内で呟いていると、鯨はこちらを静かに見ていたようです

「ナガレ」

「なんですか、イサナさん」

「今日はもう良い。休め」

「!!」

思わずイサナさんをマジマジと見返してしまいました。(睨まれました)

なんと、イサナさんから休めと言われるなんて

ぽかんとして見つめていると

「ナガレには明日も働いて貰うからな」

と少しだけ体を揺らして笑っているようでした

「明日は基本的な業務を仕切ってもらう」

「仕切るって、皆さん辞職しましたよ?なにを仕切ればいいのですか?」

イサナさんは明日になればわかることだと言い、答えを教えてくれるつもりは無いようです

「……。」

手に持った連絡先の乗っているノートを投げつけると、鯨の頭にパサリと落ちました

「ホエルオー、ゲットだぜ!」

決めポーズの3秒後、意図的に起こされた波により海水まみれにされました

そんなに怒らなくても良いと思うのですが

「海水と魚ばっかり食べてますし、あまり怒ると血圧上がりますよ!」

再び海水が襲ってきました

ベーコンになれ

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