大好きとごめんね
響く咆哮は言葉をなさず
弾けた光は炎か雷か
激しい戦いのなか、彼に思いを馳せて…
はじめて会ったのはカラクサだったか
僕のパートナーがまだツタージャだった頃
彼が驚いたのは僕がポケモンと話せることじゃなく、内容にだった
ゲーチスとか言う胡散臭い男の演説を聞き流しながら
「嫌な演説だね」
と思わずこぼすと、耳元で返答があった
『まったくだ。低固体値で捨てられた僕をわざわざ拾って、強くするなんてバカもいるのに』
「…僕のことかい?」
『まぁ怒らないでよ。そんなバカが好きだって話さ』
僕の肩に乗りながらそんなことを言われ、頬にキスをされて嬉しくないわけがない
「やっぱり君を選んで良かったよ」
『僕もハルトに着いてきて良かった』
嬉しくて嬉しくて、肩から引きずりおろして抱き締めたとき
「あり得ない!ポケモンがそんなことを言うだなんてっ!」
声に驚いてパートナーから視線を上げると、若葉のような緑の髪を垂らした青年が目を見開いてこちらを見ていた
今思えばそれが、彼がどんな環境で育ったかわかる言葉だったんだ
大切なトモダチと称すポケモンから好きとも言われず、なのにポケモンだけを想い歩む人
悲しい人
それから幾度となくバトルして返り討ちにしたけれど、あの人はもしかしたら羨んでいたのかも
僕とパートナーの関係を
「ポケモンと話ができるから何?ポケモンと育ったから何?」
君は立派な人間だよ
僕の名を叫ぶように呼んだレシラムを仰ぐと、ゼクロムに押されていた
そりゃそうだ
ゼクロムは四天王もチャンピオンも倒して、レシラムよりレベルがあがっている
だけど…
「龍の息吹き」
「ゼクロム!」
レシラムは特殊攻撃が得意。それに対し、ゼクロムは物理攻撃が得意。
つまり、こちらは遠距離から攻撃することで、相手の攻撃を避けつつバトルを有利に進めることが出来る
距離をとったレシラムが再び竜の息吹を吐きつける
「卑怯でごめんね、N。負けたくないんだ」
レシラムとゼクロムが同時に膝を付いた先で、Nが笑っていた
『別に卑怯なんかじゃないでしょハルト。バトルは勝つか負けるかだ』
「それじゃあ悪役の台詞だよ」
そう返すと、ジャローダはつまらなそうに鼻を鳴らしただけだった
傷だらけのレシラムとゼクロムはもう戦えない
引き分けだ
後ろで、僕の手持ち達に倒された下っぱか賢者かが叫んでいるけど
Nと僕には、互いの姿しか見えていない
「さすがだね、ハルト」
「ありがと」
まだ諦めてあげないから
☆☆
悲しい過去を消してあげられたら
君はもう少し…
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