箱の中身はなんだろな
ピンポーンと間抜けなインターホンの音が聞こえ、玄関を開けると大きな箱があった
宅配の若いたくましいお兄さんが2人掛かりで持っているくらいには大きく重い箱のようだ
ダンボールの底がよく抜けなかったものだと一瞬だけ感心した
書類に判子を押して建物内に入れてもらった巨大な箱…大柄な人間でも納まりそうな箱をしばらく見つめる
送り主は級友のようだ
一体、何を寄越したのだろうか…暑中見舞いだよ☆とかいうもんじゃないのは確かだが
考えていてもこの中身は解らないため、恐る恐るガムテープを剥がしにかかる
ジビビビビと勢いよく取れたそれを投げ捨て、中身を確認すると
生首と目が合いましたとさ
「ぎゃぁぁぁあぁぁぁ!あいつ遂に人殺したのかぁぁあ!?力加減間違えてバラバラですテヘペロってかふざけんな共犯か隠蔽か証拠隠滅か生首とか箱に詰めてるだけでもアウトなのに仮にも友人に送りつけるとか」
「…おい」
「キイィィヤァァァァしゃべったぁぁぁぁああぁぁぁ!!!!」
生首が顔を若干しかめて五月蠅いと毒づいた気がするがたぶん気が動転しすぎているせいだ
きっとそうだ
箱を勢いよく閉めて、取り敢えず携帯電話の履歴を漁る
箱の中から何か聞こえたが気のせいだ
プルルとコールは三回だった。ガチャリという音を聞きながら息を吸い込む
「もしもs」
「てめぇサイタマ友達なのに生首送ってくるとは何様だてめぇお前生首とか箱から生首とかてめぇふざけんなよ殺人はテヘペロで済まねえぞハゲこらてめぇ!!!」
「ちょっま、おま、ハゲじゃねぇ!!!」
サイタマは動揺したらしいが、とりあえずハゲの訂正だけはしっかり求められた
背後でダンボール箱がカタリと揺れる
「先生にそんな口を利くな。失礼だろう」
「黙れ生首おまえ接続部位ふーふーして体にさし直してやろうかあぁん?残念ですが冒険の書が消えてしまいました言わせんぞこら」
「……。」
なんかナチュラルに会話人数が増えた気がしないでもないが残像だろう
電話越しの会話が聞こえたか、サイタマの声が少し笑う
「ああ、ちゃんと届いたか。ナガレ、そいつはジェノスだ」
「生首に名前付けてんのかそれともジェノスの生首千切ってきたのか知らないけどお前突然ヒーローになるとか言って仕事辞めてさぁ案外真面目で真っ直ぐなとこは認めてたのに人殺しってお前」
「お、落ち着けよナガレ…涙声になるなよ、そいつはサイボーグなんだ」
修理を頼もうと思ってだな…と尻すぼみになっていく声を聞きながら、目元を拭う
サイボーグならサイボーグと最初から言ってくれよ生首…本気でどうしようかと…こちらがどれだけ、どれだけ
「てぇめぇこのやろ人がどれだけ心配したと…!!!」
頼むから泣くなと焦るサイタマにもう一言くらい文句を言ってやろうと息を吸い込む
それと同じタイミングでまた箱が少し揺れた
「取り敢えず話がまとまったなら出してくれ」
ジェノスとやらがそう訴えてきたがこちとらこの怒りも感情も収まってなどいないのであーる!
「うるさいジェノスかっこ生首かっこ閉じる!」
突然ヒーローになるとか言って突然ハゲた友達持ってるこちらの身にもなれよ!
電話越しにハゲてねーよとかなんとか聞こえたがすきま風だろう
「力加減間違えてテレビ爆発しましたテヘペロとか20回は聞いたわ!他にもオーブン電子レンジエアコン冷蔵庫コタツにファンヒーター扇風機」
カセットコンロとかまで修理に出されて見ろ!タダでやってやる領域超えてんだろ?!
「んでなに今度はジェノス直せってか!せめて事前に連絡を入れろと何度言ったか」
つかジェノスてめぇ誰だ!と叫ぶ
今更だな。と箱とサイタマが呟いた
大人しくしていたサイタマが少し控えめに口を開く
「おい、ジェノスを責めるなよナガレ…そいつは、まぁ成り行きで最近弟子になったんだ」
で、無茶してボロボロになったからお前に修理を頼みたかったんだよ
悪かったな。と謝られ、少しだけ勢いをそがれる
「…弟子を箱詰めしたらあかんやろ」
とりあえずそれだけつっこむと、ジェノスが俺の手を煩わせたくないとだだをこねたんだ。とのこと
だからといって箱詰め以外になにか無かったのか…
「…ったく。おめぇ次からはテレビだろうがジェノスだろうが事前に報告してもらう」
いいな。と念を押すと笑ってわかったわかったと約束してくれた
「…でも、ちょっと嬉しかったかな」
「あぁ?」
「ナガレ、すげぇ心配してくれたんだろ?」
電話越しの声が嬉しそうに笑う
赤面してもわからないから電話は助かる
「るっせぇやい」
空気の読める生首は大人しく沈黙していた
☆☆☆
「えっと、とりあえずジェノスだっけか。悪かったな。修理しようか」
「…いえ、お気になさらず。お願いします」
おい、急に敬語キャラになりやがったんだがどーした生首君
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