ストレス社会
同じ水槽のデビルフィッシュは、案外他の奴らと比べて神経質で手を焼いている
タコという種族自体が神経質なのもあるが、デビルフィッシュはタコの中でも群を抜いているだろう
同じ種族の先輩として気を使ってはいるが、中々困ったものだ
前に、自分達の水槽に新入りが来たときも大変だった…なんだか様子がおかしいと思って声をかけてみたら
自分の腕を食べてやがった
流石にブチブチと平気そうに腕をモグモグする同種族には心底驚いた
「おいデビ!どーした!?」
と思わず声をかけると、不機嫌そうに岩陰に入り込みながら
「ううううるさい…し静かにしてろ…ナガレ」
と唸る
なんとか無理矢理に話を聞くと、どうやら新入りと馬が合わなかったらしい。タコなんだけどな…
腕一本だけで済んでよかったと思いながら、サカマタさんに相談し水槽の変更を検討してもらいに行く
新入りには違う水槽に移ってもらいその時はなんとか事なきを得たのだが、餌がマズいだの幹部がウルサいだの館長怖いだの、何か不満や不安がある事に彼の腕が減るのは本当にどうしたものか
そのたびに幹部や館長に掛け合ってストレスを無くしてやるのは本当に骨が折れるのだ。骨無いけど。軟体動物なんでね。
「おいデビ、そろそろ慣れろよ」
幹部の仕事から帰ってきたデビルフィッシュにそう声をかける
ザブンと水槽内の海水を揺らした彼は、思い当たる節が無いらしい
一息吐いてから
「な何にだだ?」
と聞いてくる
「他のやつらにもだよ」
お前のコミュニケーション不足のせいでこの水槽のタコは二匹だけ。これじゃあつがい相手も探せないと愚痴る
手の掛かる後輩が可愛くないわけではないのだが
「…。」
「どーした、珍しく黙って」
いつもの小生意気なんはどーしたよ。と顔をのぞき込むと、墨を吐かれた
ひどい
一瞬で拡散され視界を奪われた中で、デビルフィッシュの声だけが水中を泳ぐ
「べべ別にいいいいだろぉ?お俺は」
おお前がいいい居ればいいからな、ナガレ
黒い水中から出てきた腕が胴をくるりと捕らえる。無傷の、噛み痕のない腕だ
「で、デビ、おまえ…」
どれだけの墨を吐いたのか、視界はまだまだ不鮮明で姿は見えない
顔ももちろん見えない。綺麗な表面の腕一本だけ見えている
今日ばかりは、こちらが自分の腕を食いちぎりたいくらいだ
「おま、」
混乱して言葉を返すこともできずにいると、タコなめんな。と少し得意気に晴れた視界の先でデビルフィッシュは言った
☆☆☆
タコはストレス抱えると気が狂って腕を食べちゃうらしいので←
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