イカした烏賊じゃなイカ

深海に住む私達に合わせて、薄暗く青いライトが弱く照らしている水槽内は、他の水槽に比べて水温が低めに設定されていたはずだ

なのに今日はやけに暑くて、皆がぼんやりと水中を浮かんでいる

こんなんじゃ茹でイカになる自信がある…そんなことがあれば館長あたりが喜んで食べるかもしれないけど

水槽から出て水温を下げようと調節装置を見たら、煙を吐いていた…あぁぁこれイカれてる…

こんなのヒドくないか?怒るのも通り越して切なくなってきたわ

調理されてしまう前に水槽内の皆に機械の故障を伝えてから、幹部を探す

少し前にも危うく茹でイカになる所だったのに…最近はうかうか昼寝もできない

運がいいのか、すぐに見回りをしていた一角を見つけて駆け寄る

とりあえず挨拶代わりに敬礼したら返してくれた

「一角っ一角っ、水温調節の機械が壊れたよ!茹でイカになっちゃうとこだったよっ!」

「またかっ!」

必死に一角に訴えると、手を顎に添えて少し困ったように眉を寄せる

一角はなんでも真面目で真っ直ぐで、魚達の訴えも聞いてくれるから嫌いじゃない

「うーぬ、そろそろ新しいものが必要か…サカマタ殿に言っておこう」

ポンッと手を打って笑った一角は頼りになる良い雄だ

「ひゅー!一角さんってばイカすー!」

「そう誉めてくれるな、ナガレ殿」

しかし光栄に思う!と満更でも無さそうに笑って再び敬礼をしていた

イカすイカすよ一角っ!と誉めちぎり遊んでいると、彼の後ろから吸盤のついた足が出てきた

あれは私達と同じ種族ではなく、タコのものじゃないか

「い一角…どどどどうした…?」

「デビ、どうやらまたナガレ殿の水槽の機械が壊れたようなのだ」

「…まままたか」

デビことデビルフィッシュことデビたんは、呆れたように私の水槽の方を見やる

少しグレーに色付き臭う空気が漂っているためか、大体のことは察していたらしい

「デビたんっ!またあれイカれちゃったよ、困ったよ」

「ゆゆ茹でいいいイカになるなよ、ナガレ…」

「あっはー、その冗談イカしてるっ」

「先程ナガレ殿も同じ事を言っていたぞ」

「あれー?」

一角もデビたんも少し笑っていた

先程の会話を思い出そうと奮闘してみたが、一切出てこない

「言ってた?」

「確かに聞いたぞ?」

今度は私が唸る番のようだ

うんうん言って考え込んでいると、バリン!と騒音を立てて背後の水槽が割れた

「あ、見つけたわよ。ナガレ、あんたこんなとこで何してんの?」

「鉄火マキちゃん!水温調節の機械がイカれたのを報告してたのよー」

「あー、古いかんね」

動きを止めていたからか顔色の悪いマキちゃんは、すぐに納得したように頷く

触腕で押して水槽から出していた上半身を水中に戻してあげると、少し泳いで息をしていた

魚なのに窒息するのは不便だよね

「ところでマキちゃん、何か用?」

「あぁ、ナガレをドーラクが探してたわっ」

照明を直して欲しいんだって。あなたなら届くでしょ?と通路用水槽を泳ぎながらマキちゃんが言う

「わかったー、すぐに行かなきゃね」

じゃーね!一角っデビたんっと手を振って水槽に入ると、2人とも手を振ってくれていた

うれしいじゃないかっ!

にやにやしていると、鉄火マキちゃんが私の周りをぐるぐる泳いでくる

「なにマキちゃん、連れてってくれるの?」

「ナガレ!あんた意外に速いのよね!私速いの好きよ!」

競争する?と笑った彼女に

「普通に行かせてよー。イカサマありでもマキちゃんにはかなわないもん」

と答えると、ちぇっとムクれていた

その代わりにとばかりに腕を千切って食べられたけど、まぁそれくらいは許そうじゃないかっ!痛かったけどねっ!

今日もなんだかんだでイカした日になりそうじゃないかっ!



☆☆☆
「ギシギシギシ。ナガレオマエ、イカイカ言い過ぎじゃね?ギシシシ」
「ドーラク、マッコウ勝負しなイカ?ヤラナイカ?」
「それにノる奴は、相当イカれてるな」
「相当もなにも、私イカだしっ」
「「wwww」」

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