世界を変える呪文
壁際に追い詰められて、私を挟み込むように伸ばされた手が壁を叩いて音を立てた
見上げたクダリさんに笑顔はなく、珍しく苛立っているようだった
いつも締まりのない表情を曝しているくせに、口元を下げて目をつり上げた顔はまるでノボリさんのよう
いや、ノボリさんよりも険しい顔付きであろう…クダリさんは普段笑っていることが多いから尚更不機嫌な顔が際だつのかもしれない
本人達に言えば機嫌を損ねるので言わないが…互いに比較されたり同一視されるのはきらいなのだ
徐に口を開いた彼はいつもより大分低いトーンで
「今日ナガレ、ノボリと楽しそうにしてた」
と言った
なんだ見られてたのかと溜め息を吐きたくなったが、それを堪えてかわりに
「仕事の話ですよ」
と返す
平然と返されたのに気を悪くしたのか、さらにクダリさんの顔が引きつった
何かを堪えるよう痙攣するコメカミが少し怖い
けどここで目をそらしたら、浮気をしていて後ろめたいんだとか騒ぎ出しそうなのでただ見つめる
ヤキモチ焼きなのは長い付き合いなので知っている
それでも好きなのに、彼は私を信用してくれない。まったく。
「けどナガレ、スゴい笑顔だった!」
「クダリさんはいつも笑顔じゃないですか」
「いまボクの話しは関係ない!」
またもや平然と返されたのが効いたか、かなり機嫌を損ねてしまったらしい
ほんの少し涙腺のゆるんでしまっている目を見つめると逸らされた
むくれてだだをこねる子供みたいだ
「クダリさんは、私がノボリさんみたいに仏頂面なのがいいんですか?」
「違う、ナガレ…」
ナガレ、ボク以外の人と仲良くしないで。と只でさえ近い距離を詰めて額に唇を落とし抱き締めてきた彼を見上げる
今度は目を逸らされなかった
ただ、シャンデラの炎のような妖しい光を灯した瞳が見下していた
「出来ないならキミを閉じ込めちゃう。監禁しちゃうかも。」
ボク以外見れないように、ボク以外と会えないようしちゃう。
少し微笑んで言った彼の表情に恍惚とした何かが滲んでいる
「……、」
別に良いですよ。と返すと彼は少しだけ拍子抜けしたような顔をしていた
自分から言い出した癖に、何をぽかんとしているのか
いつものクダリさんらしくてその方が好きだけど。怒ってるのも不機嫌なのも好きじゃない
「それでクダリさんが満足なら」
いくらでも縛って閉じ込めて監禁しちゃって下さい
お返しに背伸びして頬に口付けすると、さらに強く抱き込まれて口付けが何倍にもなって返ってきた
☆☆☆
これはラリマス寄り←
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[mokuji]
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