背中と白と黒

駆けずり回ったNの城

四天王も賢者もジムリーダーも幼なじみもチャンピオンも置き去りにして、ようやく待ち望んだ後ろ姿

「やっと、見つけたよ」

優しい緑の髪を揺らして振り返った、彼が笑う

Nの城はとんでもない場所だ

色んなところからダサい服のプラーズマーが現れたのより

なんたら賢者やジムリーダーのバトルをくぐり抜けたのより

様々な思想が入り乱れていたのより

彼の過去の残り香が漂う場所であること

影のうちの一人に導かれて入った、窓のない子供部屋

偽物の空模様に、ポケモンのつけたであろう傷だらけの場所

引っ繰り返ったままの電車の玩具

バスケットゴールには別の玩具が絡まっていた

暖かみも何もないこの部屋で、Nは育ったと無機質に説明してダークトリニティの一人は消えた

『異常だな、ハルト』

「うん。」

隣で響くジャローダの声に頷く

ぼくとジャローダしかいない、彼の心を映したような部屋

気に入らないゲス野郎に教えられたNの過去

傷ついたポケモンのみと触れ合い、自らも傷つき育ったN

この世界が、あんなにも綺麗な人を苦しめているのか

「N」

「ハルト、待っていたよ。」

君を、同じ英雄であると信じていた

そんな風に言われたって嬉しくない

僕は、鳥かごから綺麗な君を逃がしたいだけなのに

「さぁ、」

僕を止めてみなよ。君と君のトモダチとで!

そう力強く叫んだ彼の手から放たれたボールから、黒い龍が現れる

「……」

彼を止めるとか、戦うとか、傷つけるだけの行為でしかない

けど、これは僕のわがままだ

「ごめんね。信用して仲間になってくれたのに、ダメなトレーナーで」

僕の落としたボールからは、白い龍が

「行こう、ゼクロム。僕らの世界のために」

「ごめんね。レシラム」

炎と電流が走り、空気が熱を帯びる

美しくも激しい光が何度もぶつかる

早口な彼は、僕の言葉なんて聞こえてないんだろう

「ジャローダ、隣にいてね。メラルバ、モノズ、ズルズキン、ダイケンキ、後ろの奴ら全員黙らせてきて」

僕は僕の言葉を意地でも聞かせたい

君の思うばかりの世界でないと

ポケモンに優しい人もいるし

悪人ばかりでもないし

君に、ポケモンしかトモダチがいないとか、そんなことはないんだって

ジャローダの、進化して小さくなった手を握り締める

「誰にも邪魔させない。」

ごめんね。



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