存在意義
☆あてんしょん
・超特殊主
・少しデリケートな題材を取り扱ってます(凡子は偏見ないですが、一応)
・18禁未満グロあり
…OK?
くそくらえだ。漏れ出す舌打ちに無機質な目がじろりとこちらを見やる
こんな怪我をするなんて普段じゃ有り得ねぇんだ…
間抜けな失態を犯した自分に真っ昼間から出てきたバカ怪人にここに居合わせた想い人に、すべてにどうしょうもない理不尽さと怒りと悲しみと…とてもじゃないが形容しつくせない思いがぐるぐる渦巻く
いっそ死にたいと、目の前で応急処置をしてくれている男を見ながら長い息を吐いた
俺はこの町で数年前からヒーローをやっている。その辺に沸いてくる怪人をボコボコにするのを仕事にしていた
無免ライダーとかタンクトップ勢みたいに一般人との関わりは少ないが、A級になるくらいの実力はある
一人称からわかるとおり俺は男だ…ただし中身だけ
身体は女のそれで、所謂性同一障害であるとレッテルを貼られたのは中学生くらいの時だったか
俺は自身の丸みを帯びていく体に、小柄な体型に、高い声に全てに嫌悪感を抱いていた
だから血反吐吐くような努力をして色んなもんに手を出して、強さの象徴のようなヒーローになったんだ
ヒーローとして活動している間は男として生きることが出来た。女の身体をしている性同一障害の俺のことを知る奴は誰もいない。俺は一人のヒーローとして存在できた
しかし、厄介なことがもう一つ…女の身体を嫌悪するあまりか男への憧れが行き過ぎたか、恋愛対象は男だった
よりにもよって堅物そうな新人ヒーローの鬼サイボーグことジェノスに恋をしてから、そのことに気が付いた
俺はあくまでも男だ。同性が好きなんて知れたらどうなるか…俺は別にプズリズナーみたいになりたいわけじゃないんだ
まぁ、あれだけ自由なのは逆に羨ましいが
ジェノスは実力が高く、すぐにS級まで登りつめた
互いに上級のヒーローだけあって、同じ怪人を相手にしたり同じ任務に当たることも多くなった
俺はそのたびにジェノスに惹かれていき、それと同時に自分の境遇を恨んだ
初対面の時に男だと告げなければ、自分を殺して女として、彼を好きでいることを許されたのかもしれない
今更どうしようもないことだが…
そんなことばかりに気を取られていたのが悪かったんだろうんだろう
視界の端に映った金糸に、つい気を取られ出来た隙を見逃すバカはいない
怪人に服を引き裂かれ、上半身を焼き鳥よろしく貫かれてから人生最大の失態を犯したんだと気が付いて、自分の愚かさを恨んだ
怪人の出現を聞きつけ来たのであろうジェノスが僅かに動揺したように動きを止めたが、それはほんの一瞬のことで俺との戦闘で手負い状態だった怪人にとどめを刺す
ずるりと体内を通過していく異物感を堪えて刺さっていた物を抜く…やばい心臓がない
だが、自分は進化の家とかいうそれなんてポ●モン?と言いたい場所で色々やったことがあるから、これくらいで死にやしない
ふと視線を感じ顔を上げると、ジェノスと視線が合わない…彼は俺の首の下らへんを見ているらしかった
今の最大の問題は臓器が数個無くなったことより、血が大分こぼれてしまったことより、怪人を自分で仕留め損なったことより…想い人が俺の破れた衣服の隙間から見えてしまった身体を見たことだった
彼の目が見開かれ、少しして逸らされる。下を見れば、衣類もサラシも破れて肌が露出されているんだろう
…見たんだろうな…気が付いたんだろうな…出来れば俺が生涯隠したかった秘密なのに
何も言わず、俺の飛び散った臓器を拾ってきたジェノスは視線を僅かに逸らしたままだった
しばらくは無言でお互いに窺うように沈黙を続ける
一般人は避難し怪人も倒れた今、俺の溜め息や舌打ちだけが静寂のせいでやけに耳に付く
時折こちらを一瞥する目がやけに怖かった
「…みた?」
俺の臓器やら骨やらを慣れた手付きでもとの位置になおしていくジェノスは口を開かない
見たも何も、服をはだけさせて臓器まで露出させているのに…
「はは…気持ち悪いよな。俺のことどう思った?」
「性別不明のキッチン用品」
「あぁ、オカマかオナベかってか」
いつも通りの憎まれ口として吐かれたのか本心からの毒か、今の俺には計り知れない
ただ、吹き飛んで彼の手によって戻されている心臓が、そのまま握りつぶされているんじゃないかと思うほど痛んだ
この場から逃げ出せるなら速攻逃げ出したい。臓器がいくつも落ちてなければ可能であったのだが…
「…なぁ、ずるいんだけどさ、聞いてくれる?」
ちゃんと諦めるから。一度きりだから
沈黙が痛くて、どうせ軽蔑されるならと思って口を開くとジェノスはようやくしっかりと視線を合わせてくれた
わざわざ嫌われるために口を開くなんて、なんつーマゾいことをするつもりなんだろうと、自嘲的な笑みが浮かぶ…もっともすでに嫌われてるんだろうけど
「俺、お前のことが好きなんだ」
「……」
ジェノスが立ち上がった。大穴があいていたにも関わらず、傷はすでに粗方治癒しかかっていた。
今なら答えを聞かずにこの場から立ち去り、このまま逃げ出すことも出来るがそうする気は微塵も起きなかった
「俺、女だったらちゃんと好きでいられたのにな…ちゃんと男だったら諦め切れたのにな…」
身体だけでもって思うときがあるんだ。最初にお前を騙して、自分偽って女だって言えば良かったのにって思うときもあった
「気持ち悪いよな」
答えを聞いたらすぐに立ち去ろうと思った。しかしジェノスの顔を見上げる勇気はなかった
嫌われてる。気持ち悪がられてる。きっと嫌悪の目が見つめてる
視線がどんどん下がって、血だらけの元衣類だった布切れと自分の膨らんだ胸が視界に入る
こんな自分なんて大っ嫌いだ
顔を上げられないでただ俯いていると、パサリ。と、何かが被せられた
「……?」
見上げると、ジェノスのいつもと違わぬ無表情がこちらを見下ろしていた
「ハルト、着ろ」
「…男なら、隠さなくて良いんだけどな」
「……。」
どこから持ってきたのか解らない上着の袖に手を通すと、突然視界が暗くなった
見上げると目の前で金糸が揺れている
ジェノスは何も言わなかった
無意識に見開いていた視界が段々と歪んで、自らの喉がひくりと鳴った
俺は子供のように泣きじゃくり、抱き締めてくれる男の背中に手を回す
不器用に後頭部を上下する手が、背中に回る力強い腕が、俺の存在を認めてくれている気がした
「ハルト、お前がどう思おうが」
お前はお前だろう
そう確かに鼓膜を揺らした低い声に、そっと目を閉じすべてを委ねた
☆☆☆
…重い?
凡子は偏見ないですよ
まぁ身近にいる身だしね。うん。
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[mokuji]
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