過去の悪夢

白衣を着た背中が、顕微鏡を覗き込んで手元の卵に何やら行っている

その背中を眺めていたら、唐突にそいつが過去の俺だと言うことに気が付いた

周りには同じ様にする白衣が並んでいる

こいつらが、なにを行っているか

そんなの簡単だ。問うまでもない。今まで俺が行ってきたことだ

ポケモンとポケモンを組み合わせ、最高の個体を作るための実験

「畜生、また失敗だ!細胞の採取からやり直しかよ」

俺の隣の男が苛立ち紛れに卵をゴミ箱に投げ入れる

生まれる可能性のある命を、紙屑や生ゴミの溢れたゴミ箱に投げ入れる

「…うるさい、騒ぐな。集中できない」

俺の背中はそう言っただけで、眉一つ動かさなかった

まるで一つの命がどうなろうが、興味ないようだった

「暴れるなら弱らせろ」

「やめろ、そいつは貴重なんだ」

どこかでそんな言い合いが聞こえる

大丈夫、瀕死にするだけさ。と誰かか笑う

ポケモンの悲鳴が聞こえた

「弱いな、こいつは使えない。」

「なら逃がせ」

廃棄すると処理が面倒だ。と笑い声が木霊する

生まれて間もない存在が窓から外に投げられ、遠くでぐしゃりと鈍い音がした

俺は関与せずと言ったように、ただ黙々と顕微鏡をのぞき込んでいる

無性にその背中が腹立たしく、思わず肩をつかんでこちらを向かせる

俺は不愉快そうに俺の手を払った

「おい、なにすんだよ」

俺と全く同じ顔のそいつは、他人行儀に俺をカナタと呼ぶ

「なにすんだよじゃねーよ、なんで止めない!」

「何を今更」

カナタがしてきたことだろ?と肩を竦めた俺に言葉が詰まった

その通りだった。他人事に腹が立ち責め立てたが、全ては俺の話なんだ

「名前が変わったからと言って、生まれ変わったとでも?」

わかってんだろ、お前は俺だ。今更何を善人ぶっているんだ。手持ちを持って愛着湧いて、だからなの?

まくし立てるように、俺は嫌な笑いを浮かべながら続ける

「手持ちに愛されてさ、許された気になった?」

残念。とそいつは声を上げてこちらを憐れむよう笑った

「そんなわけ無いのに!俺が今やってたこと、消えたと思った?施設壊して、実験ポケモン逃がして、それで忘れてもらえたと?」

あはははは!と気が狂うような笑い声が木霊する

周りの研究員もみんな同じタイミングで同じ声で笑う

頭が割れそうで耳の奥が痛くて、必死に声を拒もうと身を縮めて頭を抱え込む

それでもちっとも楽になりはしなかった

鼓膜を直に叩くように、騒音は鳴り止まない

気が付けば、やめてくれと懇願していた

「カナタ、お前は何もかも甘いんだよ」

そいつは、いつの間にか涙をポロポロと流し、泣きながら笑ってそう締めくくった

周りは静寂に包まれ、実験施設も研究員もポケモンもなにも存在しなかった

俺と、そいつだけがぼんやりと見つめ合っていた

「俺はお前を許さない」

段々と低くなっていく声がうなり声のように変わっていく

許さないと呻いていたのは、レントラーだった

『ーーーーーーー!!!』

喉元を狙って迫る牙に動くこともできず

「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

『ーー。』

「……なに、また夢落ち?」

上半身を持ち上げると、レントラーの呆れた視線を頂戴した

起こしてくれるつもりだったのか、それとも別のことをするつもりだったのか、振り上げていた前足をそっとベッドの縁においてのどを鳴らす

押し付けられた額を撫でながら、顔をのぞき込んできたマスカットを引き寄せ抱き込む

いろんなことがあったからだろうか…夢は深層心理を映すと言うが、叶うならもう夢であってもあんなもんはみたくない

下っ端にあてられた簡易ベッドが寝苦しかったせいだ。そうに違いない

王子様に色々まずいところを見られて軽蔑を恐れたわけではない。断じて

ベッドによじ登ってきたレントラーもマスカットも巻き込み、布団に潜り込む

暖かさが無性に愛しくて、それを噛み締めながら目を閉じた



☆☆☆
その頃のクリーム
「僕も一緒に寝たいけど、ベッドに入れないし…ボールからむやみに出たら他のトレーナーさんに臭いって怒られたこともあったし…いいなぁ」

クリームがいい子でよかったね、カナタ←

[ 87/554 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -