怯えと憂い

床に座り込んでいたカナタは、立ち上がる頃にはすっかり泣き止んでいて

トモダチのマスカットを抱き締めながら、顔色をうかがうように上目遣いで

「俺、何か言いました?」

と聞いてきた

確認するような言葉だが、何か大事なワードを語ってしまった自覚があるんだろう

ばつが悪そうな顔をマスカットに埋め、レントラーや僕を見つめている

「いや、特には…」

僕には何を言われたのかよくわからなかったよ。と答えると、カナタは隠さずに苦笑いしてた

嘘をついているんだろうと言外に言っているようなものだ

ならいいんですけど。と答えた目は困惑に揺れていて、弧を描いただけの唇は乾いた笑い声を少しだけ漏らして閉じた

沈黙が場を支配し始めると、レントラーが呆れたようため息をはいて口を開く

「…N、伝えて欲しいんだが…」

「あぁ、カナタ、レントラーは君について行きたいんだって」

「俺に?」

目を見開いたカナタは、しばらくレントラーと視線を絡ませ

「こいつ、なんて言ってたんですか」

そう静かに僕に聞いてくる

トモダチと話しが出来ると他人に告げたとき、大体のニンゲンは否定し理解などしようとしない

だのにどうしてカナタは…

「カナタに認められて、連れて行ってもらいたかったって」

「へぇ」

無関心そうに出てきたのは言葉でも何でもなくて、でも少しだけ綻んだ表情に何も言えなかった

「お前が良いなら、ついてきてくれる?」

襲ったりしないなら、だけどな。と伸ばした手に、レントラーが額を寄せる

「腑抜けたことをしなければな」

と呟いたレントラーにマスカットは少し怒っていたけど

「ねぇ、カナタはトモダチ達に何かしたの?」

「そうですね。」

軽蔑します? と否定も弁解もする気もないらしいカナタは、レントラーに視線を落としたままだった

「僕には、よくわからない…」

気を使った訳じゃなく、本心だった

そうですか。 と困ったように笑ったカナタはやっぱり何処かトモダチににている目をしてた



☆☆☆
襲われて怯えて
望まれて嬉しくて

本当は嫌われたくなくて
好かれる権利はないけれど

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