過去と忘却

建ち並ぶビルを見上げ、埃っぽさに混じる潮の香りが海の近くであること知らせてくれる

ヒウンタウンはビジネスの街と呼ばれるだけあり、行き来する人の姿が多い

ビジネスマンが多いのはさすがと言うべきか。騒がしくてあまり好きではないが

マスカットは海の方へ行きたいのか、波止場までの案内看板を指差して訴えてくる

マスカットはどうやら海が好きらしいのだ

ただ呆然と波の押し寄せては引いていく様子を眺めていることが良くあった

久々の海の香りに気が付いたか、パートナーは早く早くと腕を引いて急かしてくる

俺らが居たところは海に囲まれていたし、少し懐かしいのかもしれない

「あまり急ぐなよ」

『ーー!』

ふよふよと飛んでいくパートナーの背中に付いていく

途中、すれ違った誰かが見つけた…と呟く

この街では様々な人が様々なものを探しているのだろう。大きな街には人物だったり物だったり建物だったり、様々なものが行き来し集まってくるからな

俺もあとでヒウンアイスの店とか探したい。雑誌とか見てるとすごく美味しいらしいし

しばらく施設に籠もりきりで外に出ていなかったから、たまにはプラズマとか何とか忘れて、こんな日も良いかな

休日万歳!

…なんて思ったのがいけなかったのか

「ドレディア、花びらの舞!」

「クリーム!」

『---!!』

少し前に襲われたためか、我ながら良い反射神経でボールを投げる

相手の指示を聞き終わるかどうかで飛び出たクリームが、鋭く襲いかかってきた花びらを身体で防いでくれた

クリームは特防を高く育ててあるし、草タイプの技は半減の為大したダメージにならないだろう

ちっと舌打ちが聞こえる

騒ぎを聞きつけたマスカットが慌てて帰ってきて唸った

「何をしてくれたんだ、お前は」

ドレディアに指示を出した人物は、ひどく憤っていらっしゃる

どこかで見知った顔だなと一瞬だけ思案して止める

思い出したくない方の顔だ

なんの話だ?とすっとぼけると、再び花びらの舞を放たれた

マスカットがサイコキネシスで向きを変えてくれたお陰で当たらなかったが

「お前のせいで俺達の実験はすべてパーだ!!」

地団駄を踏む男に指さされながらも、目の前のこれがどこか他人事に起こっている出来事な気がした

冷静じゃないやつを見ると、逆に自分が冷静になるって言うがその通りだ

「……マスカット、黙らせろ。」

サイコキネシスで地面に抑えつけられた男は、それでも喚くことを止めない

「おまえだって散々やってきたじゃないか!実験でポケモンを失うのは仕方のないことだ!今更なにを言ったて、お前はもう…」

『ーーー!』

普段は大人しいクリームが大きく鳴いて、男の声は聞こえなかった

ビルが建ち並ぶ通りと違い、波止場の方は意外に閑散としていて周りに人が居ないのが救いだった

誰にも見られていないことを確認し、ライブキャスターを取り出す

非通知ってどうやってやるんだったか

「クリーム、毒状態にして動けなくして。あ、もしもしジュンサーさん」

マスカットがサイコキネシスで男とドレディアを地面に抑えつけている間に、クリームが近づいていく

ベトベトンのクリームなら、触れるだけで毒状態にさせることが出来るだろう

ジュンサーさんに連絡を終え、さっさと立ち去ることにする

マスカットは目的の海をじっくりと見れなかったからか、少し恨めしそうだった

ポケモントレーナーがポケモンを使い人を襲っていると通報したし、すぐにジュンサーさんが来るだろうから、パートナーには悪いが長居は出来ない

「はぁ…災難だったな、マスカット」

冷静に考えれば、

毒に呻く声と遠くに響くサイレンの音を聞きながら、歩くスピードを上げる

「………どこまで逃げれば、」

俺を忘れてもらえるんだろうか



☆☆☆
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