みつけた
「…君に話しがあるんだ」
私の足下に丸くなったそれは、私が前世に狂ったように求めたことのあるものだった
「ハハコモリ、シザークロス!」
『はい!』
言う終わるか否かと言うところで彼女は動いていた
ハハコモリが両手を剣のようにして攻撃すると、まったくよける動作もなく弾き飛ばされたヨーテリはトレーナー(らしい少年)を巻き込んで鞠のように地面を跳ねて落ちる
レベルの差は、元廃人の私でなくても解るほど歴然としていた
普段大人しくニコニコしている彼女からは考えたくないほどの強烈な一撃を放ったのは、この状況があまりに許し難かったからなんだろう
少年のお友達なのか何人かの少年達とその手持ちが取り囲んでいたのは…生まれたばかりなのか成長不良なのか…ふつうの子より随分と小さなフシデだった
しかも赤紫ではなく、枯れ葉のようなくすんだ茶色がかった体色は何千匹に一匹しか持たないもの…
「色違い」
私の小さな声は、ハハコモリに蹴散らされて逃げる少年達の声にかき消された
彼らがこのフシデを色違いと認識して捕まえようとしたのか気味が悪いと虐めたのか、またはまったく違う理由で取り囲んでいたのか
なにも解らないが、一つ言えるのはこのフシデは野生のままでいる限り何度もこんな目に遭うだろう
それを止めるまたは少なくする方法は、あるにはある。フシデが納得してくれるなら、だけど
「…君に話しがあるんだ」
静かになった森で、私の声が大きく聞こえる。まるで神聖な儀式でもしてる気分だ
フシデは聞いていると示すためか少しだけこちらを向いた
私にこんな事を言う資格はないだろう
でも、さすがに目の前で傷付いた誰かを無視して放置するよりはマシだと思いたい
アーティ君ならなんの躊躇いもなく言えるんだろう言葉をゆっくりと紡いで、フシデはそれに小さくだけど頷いてくれた
☆☆☆
出来ることなら、ヒトを嫌わず幸せになって
私が言える事じゃないけれど
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